始まったストライキ。鉄道員、教員、そしてついに昨年12月は看護師まで…
アメリカ英語のエッセンシャルワーカーをこちらではキーワーカーと言います。医療従事者や郵便局の職員など、在宅勤務やリモートワークでは仕事ができない人、外に出て働かなければいけない人、地域社会を支えている人たちのことです。コロナ禍のイギリスでは、たとえば木曜日の何時にみんな外に出て、キーワーカーへの感謝を伝えるために一斉に拍手しましょうという運動もありました。そうやって称賛されていた人たちが、物価高の時代に軒並み生活が苦しくなり、ストライキをするかどうかが切実な問題になりました。
それで夏ぐらいから、ついに鉄道がストを始めました。以降、鉄道はここ30年間で最大規模のストライキを断続的にやっています。高等教育の職員も11月に始めて、うちの息子のカレッジもお休みになったりしました。そしてこの12月には看護師さんたちがいよいよストに踏み切りました。彼らも組合でやるべきかやらざるべきかという議論と投票をやっていたんです。看護師さんって人の命を預かる仕事だし、コロナ禍もまだ収まっていない。だから自分たちが働かないと大変なことになるという意識が、普通のオフィスワーカー以上に強いじゃないですか。その人たちがストライキをやるって、よっぽどのことなんですよ。
ストをする人々は“自由意志”で行っているのか
イギリスでは、末端の公務員の方って、あまり賃金がよくないので、公務員もよくストをします。今朝も郵便局員が12月にストライキをするというニュースが流れていました。郵便局員はこれまでも断続的にストライキをやっていたんですが、クリスマス前週にもやると言い出して。クリスマスって、こちらではカードを送ったり、プレゼントを贈ったり、それこそ日本で言ったら年賀状を送る時期みたいな感じなんですね。そういう時期にストライキをされるとけっこうなダメージになるから、騒ぎになるわけです。それでも郵便局員たちはしなければならない。そこまで追い詰められているんですね。
実は私、今年、岩波新書から出た國分さんの『スピノザ』を最近ずっと読んでいます。そこで書かれていることといまのイギリスの状況とを照らし合わせると、考えさせられることがたくさんありました。
たとえば、スピノザが自由意志に疑問を投げかけたことを論じたくだりがありますね。國分さんは『中動態の世界』でも依存症の問題で触れていましたが、依存症の患者さんがアルコールや薬物に依存したり、やめられなかったりするのは本人の意志の問題だと思われている、けれども、本当にそれは自由意志だけの問題なのだろうかと。