イギリスで統一教会の問題はどのように報じられているのか
國分 ロシアのウクライナ侵攻が、許されない側面を持っているのは間違いないと思うんですよね。それは大前提だけれども、日本ではゼレンスキー大統領をただ応援するような姿勢だけが出てきて、その単純化がすさまじいんです。特にSNSの中でのプレッシャーが強くて、全員が「炎上」におびえて生きているみたいだし、空気からズレるようなことは本当に発言しにくい雰囲気になっています。
現在は、ゼレンスキーがロシアとの情報戦において、ある種の勝利を収めたなかで戦争が続いている状況だと思います。ただ、いまのイギリスの二枚舌の話もそうですけど、もっといろんなことを考えなきゃいけないはずなのに、日本のSNSでは善対悪の単純な図式でしか語れなくなってしまっている。軍事の専門家は戦況を細かく分析していますけどね。
ロシア・マネーのことをみんなわかっていて放置していたという問題も考えさせられます。この対談は2022年12月9日に行なっていますが、昨日ちょうど、日本では旧統一教会の被害者救済法案が衆議院で可決されました。統一教会の問題も僕が大学生の頃からありました。当時から問題を指摘している人はいたけれど、国会議員はそういうカルト宗教から票を得るために、色々なかたちで、お墨付きを与えた結果、さまざまな被害が放置され、拡大していった。弁護士が頑張って被害を訴え、本を出したり陳情書を出したりしても、政治家はずっと無視してきた。結局、元首相の暗殺事件が起こったことでしか、この問題が広く世に知られるようにはならなかった。つまり、人が死ぬような事件がなければ動かないような社会に日本がなってしまっていた。今年、僕らはそのことをまざまざと見せつけられました。
ブレイディ 統一教会の問題は、あの事件後、こちらでも記事が出ました。統一教会は80年代、90年代はヨーロッパやイギリスでも活動していて「ムーニーズ」と呼ばれていました。「ムーニーズがまだ日本で活動しているということは、ここでもやってるんじゃないか。気をつけたほうがいい。もう一回思い出せ」という主旨の記事を出していたのは「テレグラフ」。保守派の新聞です。
國分 そうですか。保守派の新聞が積極的に取り上げたということなんですね。
ブレイディ 保守派って、ちゃんと教会に行っている感じの人が多いから、ああいうカルトに対しては「キリスト教の教義をそういう風に解釈してけしからん」と批判的になるんです。(その2へ続く)
構成・斎藤哲也
〔本稿は「文藝春秋100周年オンライン・フェス」にて2022年12月9日に行われた対談を再録したものです〕
▽プロフィール
國分功一郎
1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』、『暇と退屈の倫理学』(第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞)、『ドゥルーズの哲学原理』、『来るべき民主主義』、『近代政治哲学』、『中動態の世界』(第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』、『はじめてのスピノザ』『スピノザ』など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』など。
ブレイディみかこ
1965年、福岡県福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。ライター、コラムニスト。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞、19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』『両手にトカレフ』などがある。