暴走する資本主義にノーを突きつけ、『人新世の「資本論」』でマルクス主義を21世紀に復活させた斎藤幸平さん。危機意識を共有できる同世代として対話を重ねてきたのが、オランダ出身34歳の歴史家ルトガー・ブレグマンさんだ。

 ブレグマンさんは、世界46カ国ベストセラー『Humankind 希望の歴史』で科学に裏付けられた“性善説“を提唱。世界が注目する気鋭の論者ふたりによる、来日特別対談!(全2回の2回目/最初から読む)

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小さなグループが世界を変える

ルトガー・ブレグマン(以下、ブレグマン) 「世界を変えるのは小さなグループだ」――これは文化人類学者マーガレット・ミードの言葉にありますし、過去の歴史からも明らかです。良い例でいうと、奴隷解放や女性の権利獲得運動が挙げられます。ともに最初は少数の人々によって始められて広まっていったんです。悪い例ですと、ナチスドイツです。ヒトラーとその周辺の人たちによって、“悪への道”が始まったのです。

 いまの世界が直面している行き過ぎた資本主義や、気候変動問題をどう解決していくか。斎藤さんも、小さなグループが世界を変えると主張をなさっていますよね。

ルトガー・ブレグマン ©StephanVanfleteren

日本の同調圧力の強さ

斎藤幸平(以下、斎藤) はい、政治学者エリカ・チェノウェスの研究にならって、3.5パーセントの人々が世界を変える、と主張しています。歴史を振り返ると、少数派の人たちが命を懸けたから、社会はよい方向に変わってきました。ただしその際には、多数派の人々が少数派の人々に対して、オープンなマインドを持つ必要があります。ヨーロッパでは、マイノリティの意見からも学ぼうという姿勢があるように感じます。一方で、日本では、なかなか当事者が声を上げても、マジョリティが耳を貸さないことが多い。

ブレグマン あくまで部外者としての私の意見ですが、日本の同調圧力が強いことも関係しているのではないでしょうか。たとえば法律で義務付けられていないにもかかわらず、人混みのない屋外でもマスクを着用し続ける。また、長時間労働も当たり前となっているようですね。しかし、「屋外でマスクをつける根拠はなかった」「週に70時間も働きたくないのは自分だけじゃなかった」とみなが気づけば、事態は急速に変化する気もしています。

 革命が起きるときは、1人が2人、2人が4人にと一挙に増えるものです。斎藤さんの『人新世の「資本論」』は、50万部近く売れていると聞きました。しかも若い人たちに読まれているということに、日本における変革への大きな可能性を感じています。