暴走する資本主義にノーを突きつけ、『人新世の「資本論」』でマルクス主義を21世紀に復活させた斎藤幸平さん。危機意識を共有できる同世代として対話を重ねてきたのが、オランダ出身34歳の歴史家ルトガー・ブレグマンさんだ。

 ブレグマンさんは、世界46カ国ベストセラー『Humankind 希望の歴史」で科学に裏付けられた“性善説”を提唱。世界が注目する気鋭の論者ふたりによる、来日特別対談!(全2回の1回目/続きを読む)

 

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ルトガー・ブレグマン(以下、ブレグマン) 日本で50万部近いセールスを記録した『人新世の「資本論」』のなかで、斎藤さんは大胆なアイデアを唱えていますね。行きすぎた資本主義の限界や気候危機を乗り越えるため、マルクス主義の立場から経済における「脱成長」が必要である、と。現行のシステムを大胆に変えるべく、いわば“ユートピア”を提案しているのですね。

斎藤幸平(以下、斎藤) はい、理想(ユートピア)を持たなければ、大きな社会変革はできませんから。とはいえ、困難も感じています。「資本主義が危機に瀕しているのは分かるが、『脱成長』は現実的でない」と批判されることもしばしばです。今日は、ポスト資本主義や新たな社会の可能性について、同世代のブレグマンさんと話し合えることを楽しみにしています。

人間は本質的に善良である?

ブレグマン こちらこそ。最新刊『Humankind 希望の歴史』のなかで、私も斎藤さんに負けないラディカルな考えを展開してます――「ほとんどの人間は本質的に善良である」。そんなはずはない、と驚かれる人も多いかも知れません。しかしこれは、人類学、歴史学、心理学、社会学などにおける最新の研究からも証明されている事実なのです。

 世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏も、「わたしの人間観を、一新させてくれた」という応援の言葉を寄せてくれました。私はこの「新しい人間観」に基づいて、今後の社会や未来をつくっていくべきだと考えています。

『Humankind 希望の歴史』(文藝春秋)

斎藤 ブレグマンさんも私と同じく、現行のシステムとは違う新たな“ユートピア”の重要性を感じているのですね。

ブレグマン ええ。でも、それに対して、「無理に決まっている」「過激過ぎる」「現状を破壊する気か」と言ってくる人もやはりいます。ただし気候変動ひとつ取っても、科学的な見地からも、待ったなしなのは明らかなのですが……。