『週刊文春WOMAN』の人気連載「岡村靖幸 幸福への道」。今回のゲストは新著『信仰』が話題の作家・村田沙耶香さん。岡村ちゃんとは6年前、『週刊ビッグコミックスピリッツ』で対談して以来です。『信仰』の話を中心に、意外な方向へと展開した対談を『週刊文春WOMAN2022秋号』より、一部紹介いたします。
◆◆◆
岡村 僕ね、断食道場にたまに行くんです。山のてっぺんにあるお寺で開催される結構ハードな断食修行で。朝4時半くらいに起こされ、境内をすみずみまで掃除して、お経を1時間ぐらいあげ、その後、山を登ったり下りたり、夏だと1時間くらい歩いて海へ行き、浜辺の砂を掘って自分の体を埋めたり。
村田 え、生き埋めに?
岡村 いえ、顔は出して首から下を埋めるんです。解毒作用があるとかで。1時間ぐらい入ってるとコバエが顔の周りに寄ってくるんですよ。「コバエが寄ってくるってことは解毒されてます!」みたいなことを言われつつ(笑)。
村田 あはははは(笑)。
最初はウワーッ!と思うのに、なんだか心地良くなってくる
岡村 ということを6日間くらいやるんです。初めて行ったのは、もうずいぶん昔で、それからは年に1~2回、行くようになって。一度、友人を連れて行ったことがあるんです。そしたら彼は、「イヤだ」と。料金が1日1万円なんですが、「1万円も払ってなぜこんなことをするんだ」とストライキをしてしまったんです。僕は、郷に入れば郷に従えだと思っているし、そのプログラムをこなすことに、何だったら快楽さえ感じていた。
朝早く起きること、掃除をさせられること、意味も分からずお経を読み、砂に埋められ、あと、断食なのでものは何も食べられず、それぞれの部屋もないので、知らないオジさんたちと一緒に雑魚寝したりする(笑)。最初は、ウワーッ! と思うのに、2~3日もするとなんだか心地良くなってくる。言われるがまま、疑いもせず、「やれ」と言われたことをやることが快楽になるんです。
でも友人は、そこにクエスチョンを置いた。「なんで? 1万円も払って」。そのとき、ああ、僕はこの「プレー」に酔ってるなと。よく考えれば、彼のストライキは真っ当なんです。でも、僕は盲信したいタイプ。しかも、軽い拘禁状態で、好きなことなんてまったくできず携帯もつながらない。となると、だんだんハイになってきて、見知らぬオジさんたちの身の上話を聞くのも楽しくなる。だからね、僕も村田さんと同じように染まりやすいんです。疑わないタイプ(笑)。
村田 盲信の快楽、よくわかります。コンビニでバイトしていたときはそうでした。「コンビニに洗脳された」と思っていましたし。