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岡村 まるで『コンビニ人間』の主人公のように。そのバイト経験がベースになった小説ですもんね。村田さんは大学卒業以来ずっと長い間コンビニでバイトをなさってて、芥川賞を獲った後もしばらく続けていらっしゃったって。

村田 お店のオープン前のトレーニングってすごく洗脳されるんです。一人ずつ、お店の端から端に届くように「焼き鳥いかがですか!」って元気よく声を出す、とか(笑)。そういうことを体育会的に毎日続けていると、だんだん染まっていくんです。そして、頑張れば頑張るほど、本部の人に「村田さんはものすごくやる気がある」と評価されて(笑)。

結局、盲信の快楽は「迷わなくていい」という快楽

岡村 ありますよね、洗脳される快楽。それって、「小説を書く」という行為にもあったりします?

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村田 私は、小説の書き方を宮原昭夫先生(1932年生まれ。72年に「誰かが触った」で第67回芥川賞受賞)に学んだんです。宮原先生の教えを本当にそのまま、背かずにやった結果、いまの自分があるんです。でも宮原先生は、「それは違う」とおっしゃる。「村田さんは僕のやり方を全部無視して小説家になった方です」と。

 でも私は、宮原教の信者だとすごく思っているし、弟子だと思ってもらえてないのに盲信している。いまでも本当は先生のおっしゃることを全部録音したいんです。嫌がられるから、しつこくしないように我慢してますが(笑)。

 

岡村 結局、盲信の快楽って、「迷わなくていい」という快楽なんですよね。人間って根源的な恐怖や不安を抱えているじゃないですか。自分は何歳まで生きるのか、子どもが生まれたら元気に育つのか、お金に不自由したりしないか。未知数なものがあればあるほど不安になるし、何かに頼りたい、信じたいと思ってしまう。だから、パワーストーンみたいなものでも一喜一憂してしまうし。

オリジナルのやり方で神社で祈っている

村田 大学生の頃、パワーストーンのアクセサリーが流行りました。恋が叶う腕輪とか(笑)。

岡村 パワーストーンを身に着けると仕事がうまくいった、彼氏とアツアツになった、なにかしら成功体験があると、「あれ? 運気が上がるかも」と。そういうことで人は簡単に信じてしまう。「信じたい」のだろうと思うけど。

村田 縁起を担ぐという意味では、私の場合はブラジャーなんですね(笑)。例えば、今日のような対談があったりすると、「このブラジャーだと和やかに話せる」とかそういうのがあって。そんなわけないとわかっていても、心が安心するから本当にリラックスできてしまったりします(笑)。

「コンビニに洗脳された」と思っていたという村田沙耶香さん

岡村 村田さんって信心深いほうですか?

村田 私は親に無宗教だと言われたので、子どもの頃からオリジナルのやり方で神社で祈るんです。神様にいろいろ話しかけたり感謝したり、そうすると、神様からのお返事がおみくじとして自分に届く、というマイルールがあって。

岡村 神様からのお手紙?

村田 自分の妄想ですが(笑)。