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中日・石川昂弥が描く“究極の理想”「誠也さんと一緒に、次のWBCに出たい」

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2023/03/12
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 果てしなく飛んでいく打球に、一瞬で心を奪われた。エンゼルス・大谷翔平の打撃練習を生で見て、思わず記者も童心に帰った。中日の球団公式YouTubeでは、大谷の打撃練習を食い入って見る選手の表情だけを映し出した動画が、過去最高の200万再生超え。それだけ衝撃的で、世界で戦うメジャーリーガーに圧倒された。でも、中日にも規格外のパワーでファンを魅了し、どこまでも飛んでいきそうな放物線を描く逸材がいる。

 プロ4年目・21歳の石川昂弥だ。現在は、けがでリハビリ中のため全体メニューにこそ到達していないが、2軍で走塁練習やシートノック、フリー打撃と順調に回復し、3月24日の阪神戦(ナゴヤ)で10か月ぶりの実戦復帰を目指している。バットを持てば、チームトップの打球速度(170キロ)でボールをたたきつぶし、特大のアーチをかっ飛ばす。

 ややこわもての見た目だが、笑うと目尻はぐぐっと下がり、先輩、後輩のどちらからも愛される21歳の好青年だ。大好きなアーティスト、NiziUの話をすると、常に前傾姿勢。昨年末には大阪で行われた同グループのライブに参加し、「やっぱ良かったわぁ。MAYUKAちゃんにいつか会いたいわぁ。ねぇ、会わせてよ!」と激白。無茶ぶりするところまで含め、いかつい打球とのギャップにやられてしまう。豪快かと思いきやビールやお酒は飲まず、大の甘党。生チョコレートが好きらしい。パンケーキだって、一人で食べにいっちゃうスイーツ男子なのだ。もう訳が分からない。

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石川昂弥

ブレイク直前からの絶望

 石川昂は東邦高から3球団競合の末、中日にドラフト1位で入団。体調不良やけがもあり、ようやく頭角を現し始めたのが高卒3年目の昨季だった。岡林勇希とともに初の開幕スタメンをつかむと、4月にはプロ初アーチも放った。そのまま三塁の座を不動のものにするはずだった。

 しかし、5月27日のオリックス戦(京セラD)で三ゴロを打った際、三塁・宗の送球が逸れ、捕球しようとした一塁・中川圭と交錯しそうになり急ブレーキ。その瞬間、左膝裏付近を痛めた。今までに感じたことのない激痛……ではなく、直後はベンチ裏でも屈伸しながら「いけるんじゃね?」と思ったそうだが、結局痛みは引かなかった。

 診断は「左膝前十字靭帯不全損傷」。色々な道を模索したが、7月1日に手術へ踏み切った。並々ならぬ思いで挑んだ2022年は、ブレイク直前で絶望へ突き落とされた。全治8か月以上。退屈なリハビリの日々。その中でモチベーションを維持できていたのはあの“神”の存在があったからだ。

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