セカンドオピニオンで鑑定結果が覆ることも
さまざまなトラブルに「シロ」「クロ」をつけるDNA鑑定。ところが、富金社長は、「実際には、ミス判定を行う業者が存在している」と訴える。
「当社には、他社のDNA鑑定結果に疑問を持ち、再確認のための鑑定を申し込まれるお客様が多数いらっしゃいます。その中には、鑑定結果が覆る、つまり他社鑑定にミス判定が疑われる事例が数件ありました。
実際に発生した判定ミスの事例として、A社では父権肯定確率(*注1)99.9%、B社では0%との結果が出たため、再々鑑定の依頼が当社に来ました。鑑定の結果、父権肯定確率は0%でした。当社の鑑定結果の裏付けをするため、世界的に権威のある米国の機関へ鑑定を依頼した結果、当社と同じく、0%との結果が出ました。
親子関係や血縁関係は、人生を変えてしまう大きな問題です。こうしたケースは他にも存在すると思われますが、人には言えない悩みであることが多いため、大きな声を出せずに泣き寝入りしてる方々もいるでしょう。そもそも、鑑定結果に誤りがあることに気づいていないことも多い可能性があるため、実際は当社が把握している以上のミス判定が発生していることが推測される状況です」
*注1:親子の確率を示す数値ではなく、「被験者同士の血縁関係を否定することは現実的に不可能である」という意味。その結果を覆すことは事実上不可能とされている。
足利事件のようにDNA鑑定のミスを引き起こした時代から、現在の科学鑑定のレベルは飛躍的に上がったと言われている。ではなぜ、間違いは起こるのか。
ミス判定の原因は検査制度の問題かヒューマンエラー
「このような事態が発生している要因は、諸外国には存在しているDNA鑑定の認定機関が、日本にはないからです。親子鑑定の場合、国際的にはアメリカの検査機関『AABB』が規定する基準を用いるのですが、日本は自社基準で検査を行っているのが実情です。そのため、検査の精度が国際基準を満たしていない業者もあります。また、規定がないために検体を取り違えてしまうというヒューマンエラーも起きている。
こうした問題は国の認定制度ができないと解決しません。そのうえで、業者は『最低保証の検査精度』、『検査の成功率』、『ミス判定数』などの情報を開示する必要があります。さらに、『Pマーク(*注2)』のような個人情報保護や『ISO(*注3)』といった国際品質管理体制の認定取得も重要です。そうした最低限のレベルが日本ではまだ守られていません。一般人にはわかりづらい分野である以上、透明性が求められています」(同前)
冒頭の父親がわからない女性のケースでは、他社に鑑定を依頼していたら現実は変わっていたという可能性もあったのだろうか。誰もが安心・納得できる認定制度が待たれる。
*注2:プライバシーマーク。企業や団体などの個人情報保護の体制や運用の状況が適切であることを示すロゴマーク。一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が運営している。
*注3:一貫した製品・サービスを提供し顧客満足を向上させるための品質マネジメントシステムに関する国際認証規格。