細胞がついていればどんなものでもDNA鑑定は可能
一方、一般的な「親子鑑定」の実績も誇る同社だが、富金社長によれば意外な検体でも検査ができるという。
「一般的には口腔内の粘膜を綿棒で採取したものや、毛髪、たばこの吸い殻などで検査をします。ただ、細胞がついていればどんなものでもDNA鑑定はできます。たとえば、“乾燥状態で室温のまま29年間保管されたへその緒”、“使用済みのオムツを開いて完全乾燥状態で7日間保管したもの”、“人が手で握り、爪痕が付いたリンゴ”、“カバンに付いている唾液のようなシミを乾燥状態で4日間冷蔵保管したもの”でも可能です。ただし、血液を除く全ての検体は、水分を残さないよう乾燥させ、第三者が検体に触れないように気を付けて、早急に送ってもらうようにしています」
「細胞がついていればどんなものでも」――。もはやすべてが検体となり得るほどだが、それでも「細胞がキレイに残っていること」は重要なのだという。次の2つのケースは、浮気を疑った妻の執念と、息子の痴漢冤罪を信じようとする母親の悲哀の“事件簿”である。
お風呂の排水溝に残っていた髪の毛で検査依頼
「あるとき女性から、お風呂の排水溝に残っていた1本の髪の毛を、“自分の髪ではないと思うから調べてほしい”と依頼がありました。夫の浮気を疑っているようでした。ところが、結果はその奥様のDNAと一致。その後も奥様は諦めきれなかったようで、また1本の髪の毛を送ってきました。しかし、こちらも“シロ”でした。これが十何回も続き、ようやく別の女性のDNAが検出されたのです。
検査は1回3万3000円なのですが、総額40万円以上の費用がかかっています。奥様の執念を感じましたね。綿棒以外の検体は『特殊検体』として扱っていますが、それでも髪の毛などは鑑定が出やすい。
息子の冤罪を訴えた母親のDNAで鑑定を行うと…
つまり、細胞が壊れていないことが重要なのですが、象徴的なケースがあります。関西地方で、男性が女性の胸の周りを服の上から触ったという痴漢事件が起きました。警察の捜査で服の上から検出されたDNAと男性のDNAが一致し、男性は逮捕されます。しかし、男性の母親は息子の冤罪を訴えて、鑑定を依頼してきました。男性は勾留されているため、警察と同様の鑑定はできません。そこで、服から検出されたDNAと母親のDNAを調べることで、2つの検体に親子関係があるかを調べました。結果は『親子関係が成立する』というものでした。つまり、冤罪ではなかったということです。
通常、服の上から素手で触っただけではキレイなDNAは出てきません。ですから、手に精液、あるいは唾液などをつけたうえで行為に及んだのだと想像します。もちろん捜査機関ではないので事実はわかりませんが…」(同前)