3シーズンぶりの勝利を誓う平良拳太郎投手が、たくましくなった背中を示し、投手も野手も一つになって応えた4月5日、ベイスターズは開幕からの連敗を4で止めました。たとえ少々負けが先行しても、ため息は短く抑え次へ切り替えないと強くなる兆しを見逃してしまう、目が離せないチームなのだと改めて気づきました。
「もやもや」の正体は何だろう?
春季キャンプが始まる直前、なぜか他球団のファンが多い私の友人達から「今年のベイスターズはいいね。優勝しそうだね」と身に余るほど沢山の声をかけられました。その友人達の言葉はオープン戦の結果を見つめて一斉に「点が取れないね、苦しいね」と変貌。ところがトレバー・バウアー投手獲得の一報が飛び込んだ瞬間「優勝するじゃない!」と一転。かつて筒香嘉智選手が繰り返した「一喜一憂しない」やアレックス・ラミレス元監督の「どう始まるかではなく、どう終わるかが大事」という格言がメンタルを支えてくれた開幕前でした。
思えば、横浜スタジアムで行われたオープン戦6試合中勝ったのは3月5日のライオンズ戦のみ。この日、復活を期す三嶋一輝投手と共にヒーローインタビューに応じた山崎康晃投手は「オープン戦とはいえファンの皆様や僕達も、もやもやしていたものが少し晴れたかな」と話してくれました。
「もやもや」の正体は何だろう?
例えば私自身練習試合とオープン戦計14試合を取材しましたが、ベイスターズの選手のホームランを1本も目撃できませんでした。個々の現象はいくつかありますが、それ以上にキャンプ前に掲げた(1)出塁率.320(去年.308)。(2)2つ先の塁を狙う。(3)投手は3球目までの質を上げ打者を追い込む。という3つのチーム目標が霧の中にぼんやりと見える様相になったことが、心に引っ掛かるのです。去年終盤に刻み付けられた悔しさを踏まえ、高いハードルであると承知の上で示された目標。キャンプでは一人一人が目標達成のアプローチを考え取り組む姿を、確かに目の当たりにしました。
ところが、いざ実戦になると、どうもかみ合いません。三浦大輔監督が「今は失敗して良い時期なのだから」とキャンプ中盤で敢えて『チャレンジ』をテーマに置いた時期も。結果シーズン前の実戦を通して「実力通りを発揮しアピールできた人とできなかった人が分かれた。底上げという意味では現時点で物足りない」と三浦監督は残念そうでした。
WBCの舞台で今永昇太を助けた『自分を許す感覚』
「力を出せる人は気持ちの切り替えが上手」。首脳陣から何度かキーワードの様に伺ってきた言葉です。選手たちは、たとえ悔いを残しても引きずらず、次にできる最善のプレーに挑む。気持ちの切り替えが、積み上げた練習の成果を発揮し、目標に近づく重要な要素と考えます。
チーム内で「切り替え」の王者と言っても良い程、強いメンタルを発揮するのは、誰もが認める牧秀悟選手です。自身が打てたか否かに左右されず声を出し続け、チームを明るく鼓舞する姿は、WBCの舞台でも変わりませんでした。なおかつ「プロ3年目で、まさか世界一の場を経験できるとは。でもスターティングメンバーで出るのが一番(の喜び)かなとも感じました。次のWBCこそ」と経験に加え成長へのエネルギーまで持ち帰ってくれました。ショートのレギュラーを目指して、歯を食いしばっている森敬斗選手が「あの人(牧さんの姿勢)は本当にすごい」と憧れるのも頷けます。
もう一人のWBC戦士、決勝戦で先発し勝利した今永昇太投手は、大舞台で自分を助けてくれたのが去年から試していた『自分を許す感覚』だったと振り返ります。言い換えると、たとえ思い描いた結果にたどり着かなくても自分を責め過ぎない考え方です。期間中はダルビッシュ投手とも話し「自分で自分にかけてあげる声は、勝負の世界で大切」と確認したそうです。瞬間の勝負の中で上手く行かない時に悔しいマイナスの感情を持ち続けるより、もう一人の自分が客観的に語り掛ける方が次の行動を見つけやすい。今永投手の言葉には、いつも心が洗われます。