夜の廃墟群にも行ってみた。真っ暗闇にそびえ立つ巨大な建物は確かに不気味だったが、営業している大型の宿泊施設も周辺には多く、部屋の明かりも想像以上に多く点いていた。
金曜日の夜ということもあって、浴衣を着たカップルや年配者も街を散策しており、そこには廃墟のレッテルが張られた寂しい温泉街の姿は微塵もなかった。
SNSで広がる「廃墟」のイメージと、実際の現地の雰囲気と。このギャップは、いったいどういうことなのだろうか――。
進まぬ解体と「建物の劣化は急激に進んでいます」
「建物の劣化は急激に進んでいます。日光市としては建物の開口部を板で塞ぎ、不法侵入させない対策を徹底しています」
そう話すのは日光市役所建築部建築住宅課・渡辺佳行課長。しかし、現状、廃墟の対策には苦戦を強いられているという。
「実態調査を行っているのですが、ホテルの持ち主が分からず、手が付けられない物件が数多くあります。建物が河川の崖沿いにあるため解体も難しく、道路も幅が狭いために大きな重機が入りにくいのも、解体作業が困難な理由の一つになっています」(渡辺課長)
地域再生事業として建物を解体し、公園などにした事例もあるが、廃墟全体の数からみればほんのわずかしかない。
ネット上では建物1棟あたりの解体費用が1億だ、いや2億だと言われているが、工事の目処すら立っていないため、正確な解体費用は導き出せていないという。当然、日光市の予算だけでは解体することができず、栃木県や国にもアプローチを試みているものの、具体的な対策案は残念ながら出てきていない。
一大観光地だった鬼怒川温泉に何が起きたのか
こうした問題を抱える鬼怒川温泉だが、そもそも、廃墟となったホテルや旅館も、かつてはかなりの規模の一大観光地だった。
「鬼怒川温泉は東京から2時間以内という立地の良さで、昔は団体客で大いに賑わいました」
こう語るのは、日光市役所の観光経済部観光課・篠原義典さんだ。
「ただ、バブルが崩壊し、旅行客が個人向けにシフトしたことで、部屋数が多く、大宴会場を備えるホテルが多かった鬼怒川温泉は、観光客の減少に直面することになったんです」(篠原さん)