今江コーチが語る“精神面での成長”
伊藤裕自身も、試行錯誤を続けている。今江コーチの現役時代は同じ右打者としてお手本となる存在。「今江さんの現役時代のバッティング映像を見て、どういう打ち方をしているのかなというのはちょこちょこあります」と明かす。バットの出し方や軌道、タイミングの取り方、参考にすべきところはたくさんある。自分にあったものを取り入れ、実戦に生かし、成長の糧にしている。
今季の開幕戦ではスタメン入りし、ソロを放った。「まだ始まったばかりというか。打ち続けていかないといけないというところで、喜びきれないところもある」と表情を引き締めていたのが印象的だった。上々のスタートを切ったが、直後は結果が出ず。一時打率0割台まで落ち込んだが、5月11日時点では2割9分5厘まで上げた。好不調の波はあるが、試合に出場し、経験を積んでいる。今江コーチは「思い切って振りに行けるようになった」とうなずく。
キャンプ、オープン戦で猛アピールし、つかみ取った1軍の出場機会。今江コーチは「打席数を重ねていくと自信にもなって、余裕にもなる。今までは緊張だったり、いろいろなタイミングでできていなかったスイングが、やっとしっくりできるようになる。気持ちと体が出てきた」と精神面での成長を挙げた。だからこそ、取材を見守る伊藤裕に対して出た「あれぐらいの気持ちでいけばいいんですよ」の言葉。長いシーズンの中で、いいときも悪いときも必ずある。いい意味で結果に振り回されず、堂々と打席に入ることを望んだ。
いつも明るく振る舞う伊藤裕。5月27日の日本ハム戦では、死球を受けると無意識に三塁ベンチ方向へと一瞬駆けだした。「(回の)先頭だったので、出ることだけを考えて。テンションが上がっていました」と説明。その後、左手甲につけたガードも投げたかのように見えたが、「マジックテープを外して、捕手の清水が『大丈夫?』みたいなことを言ってきて、大丈夫とやったらそのまま飛んでいった」と“釈明”。おちゃめなムードメーカーっぷりに、ファンの心をつかんでいる。今江コーチは「基本的にはいつもあんな感じ。でもすごく真面目でストイックで」と目を細める。今江コーチ自身もキャリアを通じて初めての1軍での指導。若手の成長をサポートしながら、指導者としての成長を続けていく。
右打者から右打者へ――。経験が伝承され、はばたく体勢を整えている。杜の都でつながった大切な縁。伊藤裕は“今江チルドレン”? その疑問を投げかけてみたが、「まだまだそんなんじゃないです」と笑顔で答えた。今江コーチと伊藤裕。ともに広角へ鋭い打球を放つ姿は、重なる部分が多い。チームから待望される右の若手の強打者。スタメン入りを確固たるものとするために、日々バットを振り込んでいく。試合のヒーローとして、私も伊藤裕の記事をたくさん書いていきたい。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2023」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/62996 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。