稲田さん ひろしさんからの電話は出たくなかったのですよ。とても迷惑だったので今後は1回電話して出なかったら、何度もかけるのやめてください。迷惑だと思ったら普通に無視します。お仕事行ってきます。
被告 ありがとね。ただ1回では取り損ねもあるでしょうから、連絡は2回までにします。
1月の段階では自らを「ゴミ」と卑下して、稲田さんのつれない反応に不満をぶつけていた被告だが、3月になると言葉に非難の色が濃くなり、攻撃性を強めていった印象だ。稲田さんも冷静に言葉を選びながら、態度と行動を改めるように求めている。しかし心労の程は察せられる。
被告との間でこのやりとりがあった3月1日に、私も「ごまちゃん」を訪れていた。私と稲田さんとのLINEのやりとりを見返していて判明したことだが、ごまちゃんに到着したとき、既に先客がいた記憶は確かにある。それが宮本被告だった可能性が高い。翌2日の早朝、私の携帯電話には稲田さんから御礼のメッセージが届いていた。
《昨日終わってから梅田に飲みに行ってました。ダメダメですね》
被告には「もう休みます」とメッセージを送る一方で、彼女自身は梅田に足を伸ばしていたということが分かる。また、スマートフォンに被告からの連絡が絶え間なく届いている間でも、店では気丈に振る舞い、御礼の連絡を忘れないところにも彼女の人柄が表れている。
事件の直前から、文面が「まゆさん」から「まゆ」に
稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。
「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」
事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。
6月7日のLINEである。
被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。
事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。
被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。
「もう店には来ないでいただけますか」と——。