2021年6月、大阪のカラオケパブで稲田真優子さん(当時25)が刺殺された事件。2023年5月22日、宮本浩志被告(当時57)の控訴審が始まる。

 これまでの裁判で宮本被告は「判決は死刑をお願いします」「被害者遺族の意図を汲むならぜひとも死刑を下していただきたい」「私についてはいかなる質問についても答える気はありません」などと異例の主張をしていた。

 稲田さんの身に一体何が起きたのか。真相解明の一助になることを願い、当時の記事を再公開する(初出2022年9月18日、肩書き、年齢等は当時のまま)。

ADVERTISEMENT

◆◆◆

 大阪北区の天満でカラオケパブ「ごまちゃん」を経営していた稲田真優子さん(当時25)が、店内で首や胸など10箇所以上も刺されて死亡した事件から1年3カ月――。生前の稲田さんを知る私は、取材者という立場でもこの事件に接した。彼女が見つかった状況が明らかになればなるほど、凶器を手にした犯人に対し抵抗しようとする彼女の叫びが脳内に響き、彼女の最期の姿がリアルに浮かぶ。

 いち常連客に過ぎなかった私でさえこうなのだから、遺族や交際相手の男性、あるいは連絡が取れないことを不審に思ってごまちゃんに駆けつけて第一発見者となったふたりの知人らの哀しみや苦悩は計り知れず、事件以前の平穏な時間の流れは誰も取り戻せていない。

 稲田さんを殺害した罪に問われているのは、事件当時、新大阪の会社に勤務していた宮本浩志被告(57)。稲田さんが2020年7月まで勤務していたカラオケバー「ラブリッシュ」時代から彼女に好意を寄せており、9月16日に行われた初公判では、ごまちゃんがグランドオープンした昨年1月18日から事件が起きた6月までのおよそ5カ月間に、83回も通い詰めていたことが明らかになった。

亡くなった稲田真由子さんと宮本浩志被告 遺族提供

異常なまでの粘着性が見てとれるLINEの頻度

 稲田さんにとって長年の夢だった“自分の店”の船出は、決して順風に背を押される形ではなかった。新型コロナの感染対策として出た緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の時期と重なり時短営業を余儀なくされ、アルコールも提供できない時期が長かった。店内に人が少なければ、稲田さんを独占できる時間が長くなる。宮本被告がそう考えて来店回数を増やしていったことは容易に想像がつく。

 およそ2日に1回のペースでとなる来店頻度もさることながら、一方的な好意――いや、異常なまでの粘着性が見て取れるのはLINEのメッセージや通話の頻度だ。

 初公判の前々日に私は稲田さんの実家を訪れ、8月末にようやく検察から戻ってきた稲田さんのスマートフォンに残っていたLINE履歴を見せてもらった。LINEの履歴は私信に属するが、事件の全容を理解するためには、そこで交わされたやりとりを検証する必要がある。稲田さんの遺族の許可を得て、その内容を公開する。

稲田さんの位牌の隣には笑顔の写真が飾られている 遺族提供

 1月18日のグランドオープンの日の朝、被告は稲田さんに対し、《まゆさんのスタートにふさわしい綺麗な朝焼けだったよ。さあ出発だね》と送り、店にも足を運んでいる。だが、店にはすでに先客がいた。1人目になれなかったことがよほど悔しかったのか、会計を済ませた退店後、3件の不在着信のあと、こんなメッセージを送り続けている(一部編集し、絵文字などは省略。以下同)。