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BBC放送後も日本メディアは「反応ほぼゼロ」

 BBCのドキュメンタリーの放送後も、日本のテレビは事実上黙殺したままだ。あれほど「グルーミング」問題について報道してきたNHKでさえも完全に沈黙を貫いている。

 どのテレビ局も、朝からジャニーズのタレントたちが出ない日はないほどジャニーズ事務所が圧倒的な権力を誇示している。民放もNHKも、ジャニーズににらまれたら、テレビ番組の制作に大きな支障が出てしまう。だから、今回のBBC報道はなかったことにするしかないのだろう。

 全国紙でも朝日新聞や毎日新聞などに少し記事が載ったものの、いずれも単発での扱いだ。こちらもジャニーズ事務所とコトを構えるつもりはないことが明らかだ。だが、メディアの扱いが冷淡なのは、そんな力関係だけのせいではないように思う。

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 ジャニー喜多川氏が2019年に死去した後も、バラエティ番組などでジャニーズのタレントたちが「ジャニーさん」のエピソード話で時々盛り上がっている。もちろん、性虐待の話などは一切出ないが、「ジャニーさんが見出してくれた」「ジャニーさんに稽古をつけてもらった」などの「師と弟子の物語」は最近でもたびたび耳にする。好感度の高いタレントほど「ジャニーさんへの愛情」をトークの中にさりげなく散りばめてくる。

 BBCの記者が「死後何年も経っている今でも、大きな影響力を誇っている人物の写真を使えないのは変だ」という日本社会の状況がある。顔を出さない「ジャニーさん」のイメージが、タレントたちの口やメディアを通じて日本人の精神にまで浸透しているのではないか。

公道からの撮影をとがめる警備員 「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」(BBC World News)より

ジャニー喜多川氏を受け入れたのが「この日本」

 これも一種のグルーミングといえるのかもしれない。故ジャニー喜多川氏によって日本中の人たちがグルーミング(=飼い慣らし)を受けているのではないか? そんな疑問さえわいてくる。

 BBCのドキュメンタリーで元ジャニーズJr.の淳也氏が語った話が耳の中で反響する。

〈だけどそれを受け入れたのがこの日本なんですよ〉

〈トップ企業にのし上げたというのが日本なんですよ。日本そのものだと思います〉

 ジャニーズ事務所をめぐる問題のありようは「日本そのもの」だという、ジャニーズ事務所にいた男性による指摘。「子どもに対する性暴力・性虐待」について、私たち日本人は欧米と比べればまだかなり遅れた段階を生きているのかもしれない。

 子どもへの性虐待・性暴力を問題視すべきところを許容し、「見て見ぬふり」をしている日本人。一体それは何を物語っているのだろうか。私たち自身も知らぬ間にグルーミングされてしまっているのだろうか。

 そんなふうに「自画像」を見せつけられ、「自問」させられたドキュメンタリーだった。

 まだ見ていないという人には、ぜひ見ることをお勧めしたい。