各球団に必ず1人は、いわゆる“バイプレーヤー”が存在する。代走、守備固め、代打、たまのスタメン出場。頭から出ることは少ないが、いつ呼ばれてもいいよう常に準備を欠かさない。楽天イーグルスでこの立ち位置の選手は、村林一輝だ。いや、この立ち位置“だった”選手である。

「来年はレギュラーを取れるように頑張ります」。昨年11月の契約更改後の会見で語っていた言葉。一軍にいる時間は長いものの、これまでは代走や守備固めでの出場がメインだった。スーパーサブとして貴重な存在。もちろん望んでその役割を務めていたわけではない。

村林一輝 ©時事通信社

覚醒のきっかけは、周囲のアドバイス

 そんな村林のバットが今、止まらない。

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「日々、いい準備をして試合に臨めていると思います」

 スポーツも仕事も勉強も、スタートラインに立った時点である程度結果は決まっているのかもしれない。野球実況も、1試合の試合時間と同じくらい準備に時間を要する。100のデータを用意したとしても、実際に放送に乗るものは1もない。試合状況に合わせて、準備してきたものを適宜抽出していく。練習で1000回バットを振ったとしても、実際1試合でピッチャーの投げるボールに対してバットを振る回数は10回前後だろうか。

 いい準備こそ、本番で結果を出す秘訣なのだ。

 大阪府堺市出身。大塚高校では1年からショート兼ピッチャーでレギュラー。2015年、楽天イーグルスからドラフト7巡目で野手として指名され、プロの門を叩く。大塚高校出身初のプロ野球選手だ。2020年ファーム日本選手権では決勝打を含む4安打2打点の活躍でMVP。球団初のファーム日本一に大きく貢献。2021年は代走や守備固めを中心に自己最多79試合に出場。もともと守備走塁の評価は高く、あとはバッティングが課題と言われていた。

 そして迎えたプロ8年目の今年。6月25日、9番ショートで今シーズン初めてスタメン出場すると、それに応える3打数2安打の活躍。7月2日からは1番に抜擢。その試合で4安打5打点の大活躍、プロ初の猛打賞。7月4日にも3安打を放ち、2試合連続猛打賞。

 これまでプロ7年で通算17安打だった男が、たった数か月で…いや、レギュラーで出始めるようになってから10試合あまりで、7年分のヒット数を超してしまったのだ。

 打撃好調の要因を村林本人に直接聞いた。

「きっかけはたくさんあります。いろんなコーチとコミュニケーションを取らせていただいて。今のコーチだったり、前のコーチだったり。技術面だったり、その時の相手ピッチャーの対応だったり。何か一つということはないです」

 突然の覚醒に思えたが、そうではないのだ。

 平石元監督、三木現二軍監督、今江さん、雄平さん、渡辺直人さん、鉄平さん。これまでに指導を仰いだコーチからのアドバイスを忠実に実行し、技術として積み重ね、今年ついに花開こうとしている。その中でも一つ挙げるとするならば、「逆転の発想」だと教えてくれた。

「今江コーチに、思い切って逆転の発想をしてみたらどうかと言われました。これは、前に平石さんにも言われたことがあります。あえてこれまでと逆のことをやってみることで新しい発見があったし、これまでの経験がより生きてきました」

 ピッチングやバッティングのフォームを変えたりすることは、選手にとって大きな決断が必要だと聞く。変えるまでにとどまらず、これまでと真逆のことを取り入れるというのは相当な覚悟が必要だったと思うが、そういった経験が今に生かされているのだ。

 7月6日にはプロ初のお立ち台も経験した。自分の名前が書かれたタオルがスタンドにはたくさんある。その光景を感慨深げに見渡す。インタビュアーの質問には、一つひとつ丁寧に、噛みしめるように答えていた。

「初めてだったのですごく嬉しかったです。チームの勝利に貢献できたっていうのと、今まで支えてくれた方々の顔とか、応援してくれたファンの方の笑顔が思い浮かびました」

 公式オンラインショップでは執筆時点で背番号66のユニフォームは品切れ、MyHEROタオルも品薄状態となっている。活躍がファンに認められた証拠だ。