——AKB48から美空ひばりまで、確かに、秋元さんの手がけるものには“こだわり”がないように見えますね。
秋元 はい。僕は芸術家ではありませんから。神の啓示を受けて、一心不乱にペンを走らせるタイプではありません。ずっと、受け手側の感覚でしたから。視聴者、聴取者の代表というか……。とんねるずの石橋貴明には、「秋元さんは、これだけ売れているのに、何にでも手を出す“悪食”」と言われていました。仕事の依頼が来ると、何でもやりたくなるんです。
——“受け手側”というのはどういう意味ですか?
秋元 高校生の僕が、ずっと、そこにいるんです。テレビを観たり、ラジオを聴いている側の……。自分だったら、どんなテレビ番組を観たい? 自分だったら、どんなラジオ番組を聴きたい? 自分だったら、どんな音楽を聴きたい? そんなに、オーディエンスを気にする芸術家なんていないでしょう?
アルバイト生活、48年間
——じゃあ、ご自分の職業は何だと思いますか?
秋元 著述業アルバイト(笑)。昔は、「詐欺師」と答えていました。「時代のニーズはどうだ?」とか「今、求められているものは?」とか、得意げに話していましたから、自分でも、実態のない怪しいやつだなと思って……。でも、「詐欺師」って答えると、冗談を理解しない人がいたので、やめました。肩書きなんてどうだっていいんです。要するに、職業の意識がないんですよ。ずっと、アルバイト。高校2年生のまま、時間が止まっているんです。自分の好奇心でやりたいことをやって来ただけですから。プロの作り手のみなさんの作品を否定するのが楽しかった。「大人はわかってないなあ」って、いつも思っていました。65歳になった今でも、外野から野次を飛ばしている素人です。だから、ラジオやテレビの台本を書くのも、歌詞を書くのも、「大人やプロはどう書くかなあ」と考えてから、それを真っ向から否定して書いていました。テレビやラジオやコマーシャルや映画や演劇や、何を観ても、いつも、「僕だったらこうするのになあ」と思っていました。根拠のない自信に溢れていたんです。
——根拠のない自信?
秋元 ええ、僕は特別に、構成台本や脚本の書き方や作詞の仕方を勉強したわけじゃないですから。あくまでも、僕の勝手な思い込みです。根拠なんかなく、ただの思いつきだし、感覚です。根拠がないから、失敗しても傷つかない(笑)。
——日本を代表するヒットメーカーの秋元さんでも失敗があるんですか?
秋元 失敗だらけです。成功なんて、ほんの一握りです。成功の氷山の下には、見えない失敗の大きな塊があります。でも、その“失敗”は、誰も知らないからこそ“失敗”なんです。それに、僕は、たとえ、失敗に終わっても、それをやっている間、楽しければいいんです。