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《SMAPのいちばん長い日が小説に》担当放送作家が小説として執筆 “20160118“生放送の現場

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 月刊「文藝春秋」では、放送作家の鈴木おさむ氏(50)が執筆した「小説『20160118』」を12月9日発売の2023年1月号(創刊100周年新年特大号)、および「文藝春秋 電子版」(12月8日公開)に掲載する。人気男性歌手グループの崩壊と再生、最後に一筋の希望を感じさせる物語だ。

 鈴木氏は20年以上にわたり、「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)の放送作家を担当した。物語は、2016年1月18日の謝罪生放送の舞台裏を想像させる。

 以下「小説『20160118』」から抜粋して引用する。

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【2016年 1月18日 午前2時15分】

 会議室に着くと、プロデューサーのハルタ、演出のノグチを筆頭に、ADを含めて20人近くのスタッフが集まっていた。

 それを見て、「何か」が起こることがわかった。

 ハルタが言った。「今夜の番組の一部を生放送にすることになりました」。(中略)

 ここ数日、世の中を大きく騒がせていることに対して、何かしらの答えを届けるのだということはわかったが。

「何を放送するの?」

 僕がハルタとノグチに聞いた。

「まだ何をするのかが決まってないんです」

 そう言った。

「緊急生放送は決まっているのに、放送する中身が決まってないってどういうこと?」

【2016年 1月18日 午後6時】

 テレビを通して沢山の人を笑顔にしてきた彼らに、悲しい言葉を言わせたくなかった。

 そんな言葉は誰も望んでいないのは分かっていたから。

 今まで彼らがこの言葉を言ったら面白いかな、格好いいかな、と考えてきたのに。

 この日に考える言葉はそうではなかった。

【2016年 1月18日 午後8時】

 面白い放送でもない。格好いい放送でもない。感動する放送でもない。

 ただ、見た人には解散しないことは分かり、最低限の安心を感じてほしいと思った。

 それだけでも伝わればと。

 何度見ても動かなかった時計の針がようやく放送まで1時間を切った時に、ハルタが僕のことを呼んだ。その時、ハルタの顔を見て、僕の鼓動はさらに速まった。

©文藝春秋 カット・城井文平

【2016年 1月18日 午後9時半】

 残酷なセリフだと分かっていながら。言わせちゃいけないセリフだと分かっていながら。

 それに従うしかなく、時間が迫っている中、彼の優しさに甘えるしかないと思ったからだ。

 これを頼まれることが彼にとってどれだけ辛いことかわかっているのに。

 でも、それしかないと思った。