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私にとっての「サヨナラ男」は銀次選手

 銀次選手と言うと私はサヨナラ男のイメージが強い。今でも鮮明に覚えているのは、2017年9月18日のマリーンズ戦。その日私はヒーローインタビューの担当だった。9回表終了時点で3-0マリーンズがリード。両チームのインタビュー担当のため、この時は1塁側ベンチ裏で試合終了を待っていた。ところが、チームは脅威の追い上げを見せ、9回裏同点に追いつく。慌てて3塁側ベンチ裏に移動した瞬間、「イデッ」という声が聞こえてきた。なんと、銀次選手が押し出しのデッドボールで逆転サヨナラ。お立ち台に上がった銀次選手は第一声

「痛かったけど、勝ててめちゃくちゃ嬉しかったです!」

 サヨナラの瞬間は場内がなんとも言えない雰囲気に包まれていたが、その一言で一気に歓声に変わった。何を聞けばいいのか困惑していた私も救われた言葉だった。

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 2019年5月9日のホークス戦では、3-3同点で迎えた9回。ノーアウト1・2塁で打席に立った銀次選手はバントの構え。しかしここで意表を突くバスター。打球はバントシフトでがら空きの1・2塁間を破りサヨナラ。同年8月15日。同じくホークス戦では、3-3で迎えた延長11回。1アウト3塁から前のバッターが2人歩かされ満塁策。銀次選手が意地のサヨナラタイムリー。去年9月3日のファイターズ戦では、4-4の延長10回。またも前の2人が歩かされ、満塁から銀次選手が押し出しフォアボールを選びサヨナラ勝ち。

 偶然にも、この3試合はいずれも私が実況担当だった。強く印象に残る打席が多い銀次選手のプレーを、一日でも早く喋りたい。

「(ファームの試合でも)いいプレーも悪いプレーもいろいろあるので、面白いなーと思いながら見ています。自分の中で野球は感覚のスポーツだと思っているので。伝わってるか分からないですけど、頑張って伝えるようにはしていますね」

 ファームでは当然、まだ1軍経験の浅い若手選手と混じってプレーすることが多い。自身の若手時代と重ね合わせて、微笑ましく若鷲たちの奮闘を見ているのかも知れない。

 プロ通算1238安打の男のプレーを間近で見られるのだから、若手選手にとってはこれ以上ない教材だろう。銀次選手自身もレベルアップを図り、若手育成にも寄与する。銀次選手がファームで過ごすこの期間は、決して無駄ではないはずだ。

 ファームの試合に行けば、背番号33のユニフォームを多く見かける。今年5月、盛岡の新球場で行われた試合では、銀次選手が1軍にいなかったにも拘わらず、スタンドには黒地に黄色の文字、銀次タオルを掲げるファンが大勢いた。

 銀次選手の登場曲にある『何度でも何度でも僕は生まれ変わって行ける』という一節。

 さらにレベルアップした銀次選手が1軍の舞台に戻ってきた時、東北のファンはこれ以上ない大歓声で迎えてくれるはずだ。

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