「特徴がない選手」と言われ続け……
黒沢さんは10年ドラフトの育成1位でマリーンズに入団。13年7月に支配下選手登録をされると、一軍で14試合に登板をした。プロ初登板は13年8月29日の福岡ソフトバンクホークス戦(ヤフオクドーム)。最初に対戦をした打者は細川亨捕手(現イーグルス)。内野手がファンブルして内野安打を許した。初奪三振は松田宣浩内野手。そしてプロ最終年となった17年は2試合に登板。最後に投げたのは昨年のジャイアンツ戦(東京D)。阿部慎之助内野手をライトフライに打ち取ったのが最後のアウトとなった。
その年のオフに戦力構想から外れたが、その場で球団から「残らないか?」と提案を受けた。最初は現役続行も視野に入れたがマリーンズ愛が勝った。今後は陰から支える側になる事で貢献をしたいと思った。打撃投手などのチームスタッフかと思っていたが提案されたのは職員だった。今度は営業職を想像したが、具体的に指示されたのは飲食担当。漠然としかイメージは思い浮かばなかったがすぐに面白さを感じた。
「元選手だから今の現役選手ともコミュニケーションをとりやすい。選手メニューを充実させられるかもしれないと思った。挑戦したいと思った」
「存在感のあるメニューを作りたい」
1月から出社をするとパソコンでの資料作りなどを覚えながら2018年シーズンに向けて監督、選手の飲食メニュー11点を考案した。石垣島で春季キャンプを行っていたチームの選手全員にアンケートの提出をお願いした。回収されたアンケートを目にして意外だったのはパフェ好きの選手が多いことだった。自身もパフェなどのデザートメニューを充実させたいという想いもあり、女性人気の高いプロ3年目の平沢大河内野手のメニューはパフェにした。黒蜜きなこパフェだ。
「食事の締めにパフェを食べるのが流行っている。ぜひスタジアムでも『締めパフェ』の流れを作っていきたいと思っています」
オープン戦が始まると売店のあるコンコースを歩いてファンがどのような商品を買っているのか視察を繰り返す毎日。時には気付かれ、「頑張ってください」と声をかけられることもある。プライベートでもフードコートや高速道路のサービスエリアでどのようなフードが売れているかが気になるようになってきた。一日も早く新しい職場で存在感を出せるように日々、研究を重ねる。そんな時、ふと現役時代に言われ続けていたことが頭をよぎった。
「自分は全部が平均的な選手でした。悪い意味で特徴がなかった。サイドから投げているぐらいで、もう一つ何かを身につけないといけなかった。それはずっと言われ続けていたことだったのですが、なかなかそれを見つけることが出来なかった。だから今度こそ、ひと際、存在感のあるメニューを作りたいんです。特徴のあるフードメニューを作ってマリーンズに話題を作りたいです」
29歳で始まった第二の人生に目を輝かせながら、取り組む姿がまぶしい。プロ野球生活で打たれた本塁打は中田翔(ファイターズ)、大谷翔平(当時ファイターズ)、マギー(ジャイアンツ)の3本。いずれも名のある強打者。悔しい想いは現役を引退した今もあるが、なぜか誇らしい気持ちも芽生えている。
2018年、昨年までユニフォームを着ていた元選手が企画考案した選手メニューから目が離せない。今季の千葉ロッテマリーンズはフィールドはもちろん、大谷から打たれた男が次なるフィールドでどのような存在感と個性を出すかにも注目をして欲しい。
梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)
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