長年、裁判傍聴をしてきた僕は、実刑判決を受け、うなだれて法廷を去っていく被告人を見ているうちに、彼らの出所後が気になってきた。“協力雇用主”に話を聞けば、実態の一部がわかるのではないだろうか。元犯罪者を積極的に雇い入れようとする企業のトップは、社会のために尽くしたいという崇高な理念を持っているに違いない。そう考え、つてを頼って会いに行ったのが、栃木県にある大伸ワークサポート代表取締役の廣瀬伸恵だった。
ところが、会うなり彼女は、崇高な理想を掲げるだけでは、“協力雇用主”はできないと言い切った。そんなキレイごとじゃないと。
出所者の過去は十人十色。犯罪歴も詐欺や窃盗から覚せい剤、暴力がらみなど幅広い。本気で更生を誓っても、きっかけひとつで崩れることも多い。社内でのいざこざ、脱走、警察沙汰も頻発する。彼らを束ねて仕事を回していくには、雇用する側もタフでなければ務まらないのだ。
「私もさんざん悪いことをして、刑務所に二度服役しましたし、獄中出産も経験しています。私自身が再犯者。まっとうに生きようと思っても、悪評が知れ渡っている地元では仕事を得ることさえ難しかった人間なんです」
建設業に活路を見出し、やがて起業しても、ハローワークは誰も紹介してくれなかったそうだ。
「だから、最初は苦し紛れに少年院や刑務所にいる知人が出所したら雇うことを始めたんです。でも、“協力雇用主”の制度を知って思ったの。これって、出所者の悩みや苦しみがわかる自分にぴったりの役割じゃないかって」
予想外の答えを聞いた僕は、その場で廣瀬に「あなたの本を書きたい」と申し込んだ。彼女の半生は出所者のリアルなレポートであり、再犯者率を下げるためにどうしたらいいかを考えるきっかけにもなると考えたからだ。
壮絶な過去とガチンコの日常
取材を進める中でわかってきたのは、廣瀬の嘘のない生き方だ。過去を隠さず、すべてオープン。問題が起きると人任せにせず自分で対処するし、社員の不満は直接聞く。当然、ケンカにもなるが、それでも逃げない。覚せい剤を使う社員を発見すれば、薬物依存症からの回復施設であるダルクに引っ張っていくだけでなく、クスリを売りつけたヤクザの事務所に自ら乗り込んで「うちの社員に手を出すな」と交渉したりもするのだ。