1999年11月、千葉県成田市のホテルでミイラ化した男性の遺体が発見された。犯人は、自己啓発セミナー団体「ライフスペース」の代表である高橋弘二。彼の独特な風貌や発言から世間でも大きな注目を集めた、当時の裁判の様子を紹介する。
2007年の新書にもかかわらず、書店での再ブレイクをきっかけに累計発行部数42万部を突破――フリーライターの長嶺超輝さんが法廷での個性あふれる肉声を集めた語録集『裁判官の爆笑お言葉集』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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小池洋吉裁判長「それは、あなたの思い込みではないですか。」
新興宗教団体「ライフスペース」代表・高橋弘二が、病気で入院していた信者の親をムリヤリ病院から連れ出し、ホテルの一室でデタラメな治療をしたあげくに、死に至らしめた事件。
事件が発覚したとき、遺体はすでにミイラ化していた。患者を保護する義務をおこたって、そのまま放置するという「不作為」での殺人罪に問われた元代表が、法廷で彼はもともと治療不可能。『定説』による判例では、殺人罪はもちろん、有罪にはならない」などと話したことに対し。
(千葉地裁 小池洋吉裁判長 当時56歳 2000.7.4[質問])
一連のオウム事件の忌まわしき記憶が消えぬ日本列島を、再び揺るがした事件でした。長い白ヒゲをたくわえ仙人のような風貌の被告人。口グセである「定説」は流行語にもなりましたね。
屁理屈とすらいえない「定説」で自らを正当化する彼を、世間は半ば面白がっていたところがありました。しかし、小池判事は違います。「理屈を聞いているのではない」と、いつもの強い口調で一喝。そうです。こいつは、人ひとりを死なせているのですから。
怒ったグル高橋は、すかさず「定説によると、小池裁判長は重罪で極刑に値する」などと反撃しだしました。なんでも言えばいいってもんじゃありません。
本件は2005年7月、最高裁で懲役7年の実刑が確定しています。教義は全くのデタラメでしたが、裁判としては「不作為の殺人罪」を初めて正面から認めた大事な判例になりました。
ちなみに、ザ・グルは著書の中で「食事はエビ・ソバ・トマトだけ」と、その仙人ぶりを盛んにアピールしていました。
しかし勾留中は、出された弁当や味噌汁を、おいしそうに食べていたそうです。(続きを読む)