文春オンライン
出会った男が次々不審死…鳥取連続不審死事件“疑惑の死刑囚・上田美由紀の自伝計画”とゴーストライターが見た“執着”

出会った男が次々不審死…鳥取連続不審死事件“疑惑の死刑囚・上田美由紀の自伝計画”とゴーストライターが見た“執着”

2023/02/26

genre : ニュース, 社会

note

 鳥取連続不審死事件で広島拘置所に収監中の上田美由紀死刑囚が2023年1月14日、食べ物を喉に詰まらせ窒息死した。享年49。勤務先のスナックで知り合うなどした計6人の男性が不自然な死を遂げ、世を震撼させた疑惑&殺人事件の発覚から13年あまり。

 一審で死刑判決を下されて以降、彼女は無罪を勝ち取ろうと自叙伝の出版を計画した。その執筆者として白羽の矢が立ったのが、当時取材で半年にわたり接見を繰り返していた私だった。そんなきっかけで「欲しいものリスト」が送られ、拘置所に届ける日々が始まった。そこで垣間見えたのは、美由紀の「生」への執着だった。

「林眞須美死刑囚のような本にしたい」

「無罪になる。ここを出て正月には家族と過ごせるわ」

ADVERTISEMENT

 2013年初夏。島根県松江市の郊外にある松江刑務所の面会室で、いつものように薄ピンクのTシャツにグレーのスポーツブラを着た美由紀は、根拠不明だが控訴審での勝機を感じ取り、息巻いていた。

上田美由紀死刑囚が拘置されていた松江刑務所

「生まれた時から逮捕、拘留されている今までの全部を本にして出したい。暴力的ではない、真実の私という人間を書き上げてほしい」

 こう言って、美由紀は私に執筆を依頼してきた。美由紀は和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚が出版した「死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら」のような本にしたいとも語っていた。

プリンセスプリンセスの「M」、小泉今日子の「木枯しに抱かれて」を歌っていたホステス時代

 私は鳥取市の繁華街にある巨漢ホステスが売りのスナック「J」で、老骨にムチ打ってカウンターに立つママと知り合いだった。

 ママは数年前にホステスを辞めた美由紀の逮捕を逆手に取り、一見の客にも「さとみちゃん(美由紀の源氏名)曲目リスト」と書かれたノートを見せびらかし、美由紀の十八番や思い出をネタにしては、客に1曲500円で歌わせていた。プリンセスプリンセスの「M」、小泉今日子の「木枯しに抱かれて」といった歌謡曲タイトルが羅列してあった。

上田美由紀死刑囚。源氏名は「さとみ」だった ©共同通信社

 ある時、この店の話をきっかけに美由紀に取材できないかとダメ元で申し込むと、面会がかなった。彼女と同年代でしかも子供の年齢も近い私は、週に1~2回、松江刑務所へ通うようになった。そのうち、自叙伝のゴーストライターとして白羽の矢が立ったのだ。

鳥取連続不審死事件とは

 アクリル板越しに美由紀と過ごした夏から気付けば今年で10年も経つ。美由紀の死はどのメディアも一報のみであっさりとしたものだった。時が経つのは早いもので、もう昔の事件には何のバリューもないのだろう。

 だが、事件発生当時は違った。あらゆるメディアが取材にしのぎを削り、中には「死体列島のモンスター」と表現した週刊誌もあるほど、報道は過熱を極めた(当時の美由紀は「報道されてる内容はウソ!」と語っていた)。

 ここで事件を振り返っておきたい。2009年4月4日、鳥取県北栄町の海岸で約270万円の借金返済を求めていた交際相手のトラック運転手、矢部和実さん=当時(47)=に睡眠導入剤を飲ませた上で意識もうろうの状態にして海で溺死させた。