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イーロン・マスクがアップル本社に乗り込んだ日 “ガチの1対1会談”に臨んだティム・クックCEOが繰り出した意外な”懐柔策“とは?

公式伝記『イーロン・マスク』特集 #10

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「ツイッターに広告を出さないと決めたわけではない」

 そして11月末の面談当日。アップル社に到着したマスクに対するアップル側の第一印象は、「何週間も満足に寝ていないんじゃないのか」というものだった。最初は会議室でクックと1対1、1時間ちょっとの面談となった。

 マスクはスティーブ・ジョブズに似ている部分がある。頭はすごくいいが人当たりは最悪な現場監督で、現実歪曲フィールドを身にまとっている。部下に気が狂いそうなほど大変な思いをさせるが、同時に、できるはずがないと思ったことをやらせてしまう。味方に対しても敵に対しても、対決をいとわない。

©時事通信社

 一方、ジョブズを継いでアップルCEOとなったティム・クックは「敵対を好まない人」。穏やかで冷静、こちらが思わずガードを下げてしまうほど人当たりが柔らかい。必要なら鋼にもなれるが、必要のない対決は避けようとする。ジョブズもマスクも、自分から騒動に突っ込んでいくようなところがあるのに対し、クックは自然と緊張緩和に持っていく。

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 ふたりの面談は、サプライチェーンにまつわる悲惨な体験で盛り上がった。そのうえでマスクは、クックはサプライチェーンの達人だ、と正しく評価した。

 クックはマスクにこう説明した。ツイッターに広告を出さないと決めたわけではないし、ツイッターをアプリストアから排除するつもりもない。アプリストアを通じた売上の30パーセントをアップルが持っていく件では、15パーセントまで少しずつ減らしていく、と。

 それを聞いたマスクも、とりあえずはだいぶ落ち着いた。ただし肝心の顧客情報の提供をどうするかは、残ったままだ。しかしこの件は、米国法廷で争われており、また欧州規制当局も検討中のため、マスクも今回の面談では一旦ペンディングとし、あえて問いたださなかった。

 打ち合わせが終わると、クックは、ドーナツ状のキャンパスの中心に連れて行ってくれた。ジョブズが思い描いたとおり、静かで穏やかな池とあんずの木々がある。マスクはiPhoneで動画を撮った。

カリフォルニア州にあるアップル本社 ©時事通信社

「@tim_cookが美しいアップル本社を案内してくれた。ありがとう」

――マスクは車に戻るとすぐこうツイートした。 

「アプリストアからツイッターが削除されるのではないかという誤解は解消された。そういうことはまったく考えていないとティムは請け合ってくれた」

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