長らくコンピュータ業界でしのぎを削ってきたアップルとマイクロソフト。90年代はマイクロソフトが「ウインドウズ」でパソコンOS市場の9割を握り、圧倒的な強さから「悪の帝国」とまで言われた。しかし、ITの主役がパソコンからスマートフォンに移ると、形成は逆転。2社のライバル関係はより浮き彫りになった。そんな両社の間には、重大な1つの共通点がある。それはCEOの交代によってビジネスをよりスケールアップさせることに成功した点だ。
ここでは、ジャーナリスト大西康之氏の著書『GAFAMvs.中国Big4 デジタルキングダムを制するのは誰か?』(文藝春秋)を引用。アップルとマイクロソフト、世界のIT企業を代表する2社はどのように転機を乗り越えたのか。新CEOがもたらした革新を詳しく紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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蘇る巨人 神亡き後のアップル
アップル社に目を移せば、常にスポットライトを浴び続けたジョブズに対し、現CEOのティム・クックは地味な人間だ。社内でいえば、ジョブズとともに「革命」の表舞台に立っていたデザイン担当のジョナサン・アイブなどの方がはるかに有名であり、メディアや投資家は「クックで大丈夫か?」と不安を口にした。
数々の神話に彩られ56歳の若さでこの世を去ったカリスマの後任。これほど困難な仕事も珍しい。だがクックはその仕事を静かに淡々とこなした。ジョブズと比べられるたびにクックはこう言った。
「ジョブズのようであれという目標を、私は決して持っていない。なぜなら、私は私でしかあり得ないからだ。私は俳優じゃない」
ジョブズが引退を表明する直前、アップルの株式時価総額がエクソンモービルを抜いて世界一になった。トップでバトンを渡されたクックは、誰かに追い抜かれる恐怖と常に向き合う不運とも戦わねばならなかった。
クックは周りから「地味だ」「物足りない」と言われ続けたが、それでも博打は打たなかった。逆にそう言われれば言われるほど、iPhoneやiPadの生産を委託している中国の工場の労働環境を整えるような、目立たない仕事に没頭した。