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利用者の立場からより便利なサービスを作ることに重きを置く戦略

 だがナデラは大胆な決断で周囲の度胆を抜く。マイクロソフトの「ドル箱」だったウインドウズの一部を無償公開し、継続的なアップデートを受けられる課金サービスに切り替えた。さらに、1から10まで自分で作る囲い込み戦略を、他社と協業してより良いサービスを作る「オープン戦略」に切り替えた。ウインドウズなどのソフトウエアを1本ずつ売るビジネスから、財務管理や顧客管理といった機能をネット経由で顧客に提供するクラウドサービスに飛び移ったのだ。利用者は、いちいちサーバーやソフトウエアを買わなくても、欲しい時に欲しいサービスだけを受けられる。

 ソフトウエアの供給者ではなく利用者の立場からより便利なサービスを作ることに重きを置くこの戦略転換は、ウインドウズを生み出し、世界最強の製品に育て上げたゲイツやバルマーには真似できない「割り切り」だった。

 決断は吉と出た。2019年、マイクロソフトのクラウドサービス「アジュール」は世界シェアで先行していたアマゾンを抜き、首位に立った(英国調査会社「IHSマークイット」調べ)。

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クリケットと詩をこよなく愛する

 クリケットと詩をこよなく愛するナデラはこんな言葉を残している。「長い散文で描きうるものを数行に変えてもなお、本質を捉えるのが詩だ。これぞ圧縮。最高のコードとは、詩なのである」

 ナデラが成し遂げたマイクロソフトの変革もまた、一編の詩のようである。

『日経ビジネス』は1983年9月19日号の特集「企業は永遠か」で「企業の寿命(企業が繁栄を謳歌できる期間)は、平均わずか30年」という説を打ち出した。福沢諭吉の教え子である早矢仕有的(はやしゆうてき)が日本最初の株式会社「丸屋商社(現在の丸善)」を立ち上げたのが明治2年(1869年)。以来、約100年の日本企業の総資産や売上高の推移を調べた結果、一つの企業がこれらの指標でランキングの上位に留まれる期間は約30年という結果を弾き出した。この特集は大評判となり、「企業の寿命は30年」という言葉が人口に膾炙するようになった。

 日本が欧米の見よう見まねで資本主義を始めた最初の100年、日本の企業社会はまさに群雄割拠の時代にあり、日本経済のステージが上がっていくにつれ、どんどん主役が入れ替わった。人間でも成長している若者の体は新陳代謝を繰り返し、新しい細胞が古い細胞に置き換わる。1990年代のバブル崩壊で成長が止まった日本経済は新陳代謝が衰え、その後、現在に至るまでの30年間、主役の入れ替わりは起きていない。

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