文春オンライン

「クックで大丈夫か?」の評価を一蹴 なぜアップルのCEOはゲイだと公表したのか

『GAFAMvs.中国Big4 デジタルキングダムを制するのは誰か?』より #1

2021/04/22

source : ノンフィクション出版

genre : 読書, 社会, 国際, 経済, 企業, 働き方, ライフスタイル

アップルに「在庫は悪」の観念を植え付けた

 短く刈ったグレイヘアーに銀縁メガネ。その奥にある目は、いつも柔らかく笑っている。それがクックの印象だが、仕事になると人が変わる。

 サプライチェーンの改革に着手したばかりの頃、サンフランシスコ郊外クパチーノのアップル本社で開かれた中国の委託工場の再編を話し合う会議で、クックは中国のオペレーションを担当する部下にこう言った。

「君はなんでまだここにいるんだ?」

ADVERTISEMENT

 クックに睨まれた担当者は震え上がり、その場からサンフランシスコ国際空港に向かったという。

「(デジタル機器も)新鮮な日付をすぎると問題が発生する。私は牛乳を扱っているように管理したい」

 そう語るクックは、開発優先のベンチャー気質が強かったアップルに「在庫は悪」の観念を植え付けた。こうしたディシプリン(規律)は、会社の規模が大きくなると失われがちだが、クックはけして手綱を緩めない。こうした一つ一つの小さな積み重ねが大きな成果につながる。

 アップルの時価総額は2018年8月、史上初の1兆ドル(約110兆円)を一時的に突破した。7年前、ジョブズからバトンを受け取ったときの時価総額は3300億ドル。クックは7年間、世界一の座を守りつつ、3倍以上に増やして見せたのだ。

「私のプライバシーを捧げる価値は十分にある」

 クックはもう一つ大きな仕事をしている。2014年10月、『ビジネスウィーク』誌に寄稿して、自らがゲイであることを公表したのだ。クックの性的指向は長くアップルのトップシークレットだった。それまで米国の大企業のCEOで自身がゲイであることを公表した人物はいなかったが、クックはタブーに挑んだ。

©iStock.com

「アップルのCEOがゲイだと耳にすることで、自分が何者であるかに折り合いをつけようともがき苦しんでいる誰かを助けることが出来るのなら、孤独を感じている人の心を和(やわ)らげられるのなら、自分たちの平等を主張する人々を勇気付けてあげられるのなら、私のプライバシーを捧げる価値は十分にある」

 時価総額世界一の企業のトップがゲイであるという事実は、世界のLGBT(性的少数者)に大いなる希望を与えた。しかしクックは自分がアイコンになるつもりはない。

「政治的でない人、官僚的でない人、賞賛など気にかけない人、細やかに成功を祝うことの出来る人、自分の名前が表に出るかどうか気にしない人」

 母校デューク大学でのスピーチで語った「求める従業員像」は実にクックらしい。