世界時価総額ランキング上位に食い込み始めた中国のIT企業各社。その成長ぶりは飛ぶ鳥を落とす勢いで、これまでIT先進国として業界をリードしてきたアメリカも、その動向に常に目を光らせている。それだけ中国の技術力は確か、かつ脅威的なものだ。しかし、個人のプライバシーを尊重しているとは言い難い中国ならではのプライバシー意識については、ときに注意が必要かもしれない。
ここでは、ジャーナリスト大西康之氏の著書『GAFAMvs.中国Big4 デジタルキングダムを制するのは誰か?』(文藝春秋)を引用。中国IT業界の現状、そして監視社会化が急加速する未来について展望する。(全2回の2回目/前編を読む)
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主役は「バーリンホウ」
たった8年で一大帝国を築き上げたバイトダンスの創業者は1983年生まれの張一鳴。
中国で現代的高等教育を受けた最初の世代とされる「80後(バーリンホウ)」で、天津市の南開大学でソフトウエア工学を専攻し、学生時代はプログラムを書くコーディングと読書に明け暮れた。
研究が終わってから仲間と焼き肉を楽しんでいた張は、2005年に大学を卒業すると旅行検索サイトの会社で数年働いた後、2012年にかつての焼き肉仲間を誘ってバイトダンスを立ち上げた。
張は感情をあらわにすることが滅多になく、会議でも常に笑顔を絶やさない。ただし、部下が望んだ結果を出せなければ、過去に功績があった人物でも平然と更迭する。アリババ・グループのジャック・マーらひと世代前の起業家のように情熱に任せて突っ走ったりはしない。
張のモットーは「商品を開発するように企業を経営する」。感情に流されることなく、経営は全て計算尽くだ。常に企業の価値を最短距離で高める選択を続けた結果、バイトダンスは設立からわずか8年で「企業価値1800億ドル(約19兆円)超」に成長した。紛れもなく世界最大のユニコーン企業(設立10年以内で評価額10億ドル以上の未上場企業)であり、米国のベンチャー投資家は、米国での広告売上と中国国内での成長により、バイトダンスの企業価値が5000億ドル(約53兆円)まで上がると推測している。まさにアリババ、テンセント級である。