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監視カメラ6億台

 バイトダンスの成長は確かに眼を見張るものがある。しかし設立8年目のベンチャー企業に超大国の米国が、ここまで神経質になっているのは、その背後にもう一つの超大国である中国の危険な野望が隠れているからだ。それを知るためには、新型コロナウイルス感染症の震源地となった中国・武漢を訪れるといい。

 武漢の街の中心部には、交差点に巨大なスクリーンが続々と設置されている。東京の駅構内などにあるデジタル看板とよく似ているが、高性能のカメラと一体になっているところと、目的が違う。日本のデジタル看板の目的は広告だが、中国のスクリーンはAIで本人と特定し、信号無視をした人の顔と名前を一日中、晒すのだ。

 英国の調査会社コンパリテックによると、都市別の人口1000人あたりの監視カメラの台数は、1位が168台の重慶。以下、深圳、上海、天津、済南と中国の都市が続く。6位に68台のロンドンが入り、7位から9位は再び中国で10位が米国のアトランタ(15台)。ちなみに東京は0・65台で76位だ。

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 新型コロナ危機をきっかけに中国政府は監視カメラを大増設しており、現在の2億台が2022年には6億2000万台になるとの予測もある。ビッグ・ブラザーがテレスクリーンと呼ばれる端末で国民を監視する「ディストピア」を描いたジョージ・オーウェルの未来小説『1984年』の世界が、今まさに中国で現実のものになろうとしているのだ。

世界有数の精度を持つ顔認証システム「Face++」

 監視カメラの「頭脳」を開発したのは、2011年創業のベンチャー企業、北京曠視科技(メグビー・テクノロジーズ)。顔の毛細血管や骨格から人物を特定する顔認証システム「Face++」は世界有数の精度を持ち、大株主でもあるアリババ・グループのほか、ホンハイの台湾法人フォックスコン、ファーウェイ、携帯電話端末大手のシャオミなどが採用し、顔認証を使った電子決済や無人スーパーの来店者管理、顔認証でドアを開閉する社員証システムなどに利用されている。

 アリババ傘下のネット金融会社アント・フィナンシャルは「Face++」を自社の電子決済システム「アリペイ」に組み込み、事前に顔写真を登録していると、スマホでもリアル店舗でも顔をスキャンするだけで支払いが完了する「スマイル・トゥー・ペイ」というサービスを始めた。財布もスマホも持たずにコンビニに行き、文字通り「顔パス」で買い物ができる。

 中国政府も「Face++」の大口顧客だ。2億台ある監視カメラは歩行者の顔情報を逐一、記録しており、当局が入力した指名手配犯の顔写真データと一致するとただちに連絡が入る。メグビーによると2018年9月までに5000件を超える犯罪で1万人以上が、このシステムで逮捕されたという。