「いかにデータを蓄積、活用するかが重要」
メグビーの創業者、印奇(イン・チー)は1988年生まれ。バイトダンスの張一鳴と同じ80年代生まれの「バーリンホウ」だ。インは毎年30人しか入れない清華大学の姚期智(ヤオ・チー・チー)ゼミの卒業生。ヤオ・チー・チー・ゼミは著名なネット起業家を何人も輩出していることで知られている。
大学時代から米マイクロソフトの北京研究拠点で働き、米コロンビア大大学院に進んだが、顔認証技術に将来性を感じて同級生とメグビーを立ち上げたのは清華大学の在学中だ。23歳のとき、大学院を中退しメグビーの経営に専念した。開発メンバーには数学オリンピックの金メダリスト16人が集結している。従業員数は2000人を超え、未上場だが企業価値はすでに40億ドル以上と評価されている。
2億台の監視カメラから送られてくる顔のデータを日々解析するメグビーのAIは凄まじいスピードで成長している。
「日本や欧米にも顔認証技術を手がける企業は多いが、最も強力なライバルとなるのは我々と同じ中国企業。この分野ではいかにデータを蓄積、活用するかが重要だからだ」
メグビー副総裁の蔣燕は雑誌の取材でこう語っている。
日本の中高生が「SNOW」で遊ぶたびに顔の画像データが...
株式市場でメグビーより高い評価を受けているのが、香港に本社を置くセンスタイム(商湯科技開発)。アリババ・グループやソフトバンク・グループも出資しており、企業価値は75億ドル(約8286億円)とされている。
創業者は香港中文大学情報工学科教授の湯暁鷗。湯が大学で進めていたプロジェクトが商業化し、香港サイエンスパークで起業した。
同社の画像認識技術はファーウェイ、シャオミなどがスマートフォンで採用している。日本でも、自撮りした自分の顔に自動的に動物の鼻やヒゲがつく中高生に人気のアプリ、「SNOW」(韓国ネイバーが提供)にも利用されている。日本の中高生がSNOWを使い、自分たちの顔を動物に変えて遊ぶたびに、彼ら、彼女らの顔の画像データがセンスタイムに溜まっていく。
センスタイムの顔認識技術は中国のAI監視ネットワーク「天網(スカイネット)」や上海申通地鉄集団の交通モニタリングにも使われており、監視社会の構築に一役買っている。
同社でプロジェクトマネージャーを務める戴娟は、十数年前に香港中文大学の大学院を修了し、マイクロソフト中国でエンジニアになった。米国本部に異動した彼女はアップルに引き抜かれ、同社のAI「Siri」のプロジェクトマネージャーを務めた後、中国に戻ってセンスタイムに入った。こんな人材がゴロゴロしている中国のAI業界の実力は、今やGAFAMに比肩する。
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