「多様性」アピールが目立った今年のアカデミー賞。そんな中で『ブラックパンサー』や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』など、作品賞・監督賞などとは離れたところで際立っていた作品がありました。映画評論家の真魚八重子さんが、第90回アカデミー賞を振り返ります。

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#MeToo運動の影響はやはり目立った

 現地時間3月4日、第90回アカデミー賞授賞式が行われました。今年はゴールデン・グローブ賞がMeToo運動の一環として、黒のドレスやスーツでほぼ統一される出来事がありました。それゆえに動向が気になっていたアカデミー賞ですが、こちらはカラフルなドレスによる通常運転。でも毎年一人くらいはビックリするような露出過多な女優がいるものですが、今年は総じておとなしめだった印象です。

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 それでも、MeToo運動の影響はやはり目立ちました。昨年主演男優賞を受賞したケイシー・アフレックが、すでに示談にはなっているもののセクシャルハラスメントの加害者として取り沙汰されていたため、今年はプレゼンターを辞退することに。

ジェニファー・ローレンス ©getty

 その代わりに主演女優賞のプレゼンターを務めたのは、ジェニファー・ローレンスとジョディ・フォスター。ところが、現在MeToo運動の中心にいるジェニファーは、授賞式の会場でワイングラス片手に座席をまたぐ姿が報道され、品格を問う非難の対象になりました。それ以外にも最近、彼女の挙動は何かと議論を呼んでいます。でも、彼女自身は昔からあけっぴろげな発言や行動が多く、自然体な姿が魅力として人気を得てきた女優なので、今回の写真もまったく意外じゃないし、彼女らしいチャーミングさがありました。ジェニファーに対して突然攻撃が増えた現象には、彼女のフェミニズム発言を快く思わない層の存在が強く感じられます。

『ゲット・アウト』を無冠で終わらせなかった、ある「配慮」

 今年はマイノリティがテーマとなった年でもあります。脚本賞を受賞したのは、アメリカでスマッシュヒットとなったジョーダン・ピール監督・脚本の『ゲット・アウト』。黒人青年が白人の彼女の実家を訪問した際の、恐怖体験を描いた作品です。ただ、冷静に見返すといささか不自然すぎるきらいがあるせいか、アカデミー賞では4部門でノミネートされつつ、予想では大穴扱い。しかし無冠で終わらせなかったのは、2017年を代表する人種的マイノリティをテーマに掲げた作品ゆえに、無視できない配慮が働いたためと感じたのはわたしだけでしょうか……。

『ゲット・アウト』で主人公のクリス役を演じたダニエル・カルーヤ ©getty