1ページ目から読む
2/2ページ目

賞レースとは無関係ながら目立った『ブラックパンサー』の勢い

 今年のアカデミー賞で目立っていたのは、2018年度の映画となる『ブラックパンサー』の勢いです。世界中で大ヒットし社会現象ともなっている作品で、本作で主要キャラを務めるチャドウィック・ボーズマンとルピタ・ニョンゴはプレゼンターとしても登場。ルピタのゴールドのドレスに黒ぶち眼鏡というお洒落っぷりは見事でした。『ブラックパンサー』は黒人が主役の作品としては、異例の大ヒットとなっているマーベルのヒーロー映画です。マイノリティの存在を力強くアピールする映画で、日本では「真面目すぎ」「ブラックスプロイテーション映画のノリがない」という評を見かけましたが、ブラックスプロイテーションから脱皮した本格派ゆえに、黒人観客から強く支持されたと思うのです。とにかく今ノリにのっている映画だけに、賞レースとは無関係ながらアカデミー賞に華やかさを添えていましたね。

チャドウィック・ボーズマン ©getty

 最近多いのが実話ベースの作品。アリソン・ジャネイが助演女優賞を獲得した『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(日本での公開は5月4日予定)も、ある世代には刻み込まれているトーニャ・ハーディングの事件を描いています。本作は編集賞にもノミネートされていましたが、それもうなずける映画的飛躍のある演出で、ドラマとして非常に面白い映画です。元の事件がまだ有名なだけにただの再現とはなっておらず、トーニャという女性像を借りて問題提起をする複雑なアプローチが仕込まれています。トーニャはアメリカを背負い体現する存在であり、同時に夫や母親からハラスメントを受ける一人の女でもあるという物語。実話の再現というより、実在の人物を利用して想像を羽ばたかせ、女の苦難をフィクションとして描いた面が印象に残ります。本作もMeToo運動と連動する一作としてオススメします。

アリソン・ジャネイ ©getty

「多様性」が受容されていく世界を信じたい

 マイノリティの問題として、最多13部門にノミネートされた『シェイプ・オブ・ウォーター』では、監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督が「わたしは移民です。多くの皆さんのように」という言葉からスピーチを始めました。そして『スリー・ビルボード』で主演女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンドが口にした「インクルージョン・ライダー」という言葉。それは俳優が出演契約をするとき、キャストやクルーの50%は性別や人種について多様であることを要求できるというものです。アメリカンドリームという言葉は死語になってしまった感がありますが、今回のアカデミー賞が打ち出した「多様性」が受容されていく世界を信じたいです。