今回取り上げるのは、Netflixで現在配信されているアニメ『ボージャック・ホースマン』。まだ日本では一部の熱狂的ファンに支持されているだけですが、それではあまりに惜しい内容と質を誇る作品なので、是非今からでも、一人でも多くの方に「観てみようかな」と思っていただきたい。日本語吹替えも素晴らしいですし、認知されたら絶対ハマる人が増えるアニメです。
ブラックでスピード感のある笑いの合間に、人生の飢餓感と抑うつ的な精神を描き、なんとか生きていくための微かな希望と回復が織り込まれたストーリー。シニカルでありながらも、切実な悲痛さを訴えかけてくる展開は、笑うと同時に嗚咽が漏れるほど泣けてしまう深いドラマ性を持っています。また演出面でも、ドラッグの影響をフィーチャーしたアニメ表現や、無言劇にチャレンジした意欲的な回など、本国アメリカでは映像作品としても批評家から高い評価を得ています。メインクリエイターのラファエル・ボブ=ワクスバーグを中心に、現在シーズン4まで制作されており、日本でもすべて鑑賞可能。今年も引き続いてシーズン5の制作に入ることがすでに発表されてます。
『ボージャック・ホースマン』の擬人化された世界は独特です。動物や鳥や魚類が人間と混在して暮らし、基本的にみんなが二足歩行で、ほとんどが人語を話します。人間と立場の違いもなく、服を着た猫やカエルやマナティが、会社の同僚として存在する状況。社会的地位は能力主義で、カエルの社長やカメの大物プロデューサー、イルカのアイドルシンガーも登場します。恋愛も同様で、人間と犬、馬とフクロウのカップルなど多種多様な組み合わせがあり、異種間でもなんら不自然さはないというルール。ただ人間そっくりな暮らしぶりの中で、動物固有の生態や癖は若干残っているのがまた斬新です。
元人気タレントのオス馬。現在は表舞台から遠ざかっている
主人公のボージャック・ホースマンは馬。90年代に『馬か騒ぎ』という、オス馬が人間の子ども3人を養子にして育てるテレビのシットコムで人気タレントとなります。ハリウッドのショービジネス界で、酒やドラッグやセックスにどっぷりつかった90年代を過ごし、現在はネガティブ思考ゆえに表舞台からは遠ざかっていますが、回想録を出す話が持ち上がり、そこから彼の人生は紆余曲折を迎えていきます。
ボージャックの周囲にいる主なキャラクターは、彼の元恋人兼エージェントである猫のプリンセス・キャロライン。ボージャックの豪邸に居候している人間のボンクラ青年トッド。ボージャックの回想録のゴーストライターとなるダイアンは、ベトナム系アメリカ人女性。そしてダイアンの恋人でボージャックの亜流タレントである、陽気な犬のミスター・ピーナツバター。相当異様な設定ですよね。