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ジャニー氏の痕跡を、この世から一切なくせば解決するのか? “戦後最悪”の性加害事件を風化させない“たった1つの方法”

2023/10/17
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 また、この車座には、「ジャニ担」、テレビ局やスポーツ紙で、ジャニーズ事務所を担当する者もいた。

ジャニー喜多川氏の痕跡を、この世から一切、無くせば解決する問題なのか?

 彼らは、長い時間をかけ、幹部と太いパイプを築いた。視聴率を稼ぐタレントを回してもらい、社内で出世階段を登る。その代わり、スキャンダルは伏せ、持ちつ持たれつでいく。むろん、性加害の報道などタブーだ。

「ふくれっ面をせず、全員、持ち場につけ。悪いようにはしない」

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 この言葉は、ジャニ担にこそ相応しかった。

 藤島前社長は、性加害を放置した責任を認め、事務所を廃業すると決めた。今後、「ジャニー喜多川の痕跡を、この世から一切、無くしたい」という。

「ジャニー喜多川の痕跡をなくしたい」藤島ジュリー景子・前社長 ©文藝春秋

 だが、その意図とは逆に、将来、喜多川氏の再評価、復活はありうるだろう。今から10年、20年、いや30年後、再び、天才プロデューサーと脚光を浴びうる。そして、じつは性加害などなかった、でっち上げとする陰謀論も出るかもしれない。

 というのは、似たことが、田中角栄への評価で起きたからだ。

 総理就任時、「今太閤」と持ち上げられた田中は、金脈問題で退陣、一気に悪徳政治家になった。ところが、死後、バブル崩壊の閉塞感で、待望論が生まれる。日本政治史に残る「天才」という。まるでジェットコースターで、泉下の本人も、さぞ苦笑いしているのではないか。

 ここでは、政治家としての田中の評価はしない。だが、事程左様に、人の評価は移ろいやすい。ジャニー喜多川氏も、例外ではない。では、どうすればいいか。

アメリカの事例が教えてくれる解決への道筋

 私は、「事実」を可能な限り、正確に残すべきと思う。米国立公文書館に倣い、性加害の記録をまとめて後世に伝えるのだ。

 米国は、大統領を始め政府高官は、任期中の記録を、一定期間後、公開する。ホワイトハウスや国務省、国防総省も、手書きのメモまで含む。これにより、在職中の意思決定が検証できた。また、著名な実業家ら民間人も、死後、遺族が、文書を寄贈することがある。

 これに倣って、「ジャニー喜多川文書」を設置してはどうか。

 となると、週刊文春との名誉毀損訴訟は、真っ先に対象になる。約20年前、性加害を報じた文春を、喜多川氏と事務所は、名誉毀損で提訴した。一審の東京地裁は、訴えを認め、文春に賠償金の支払いを命じた。ところが、東京高裁は、一転して性加害の真実性を認める。原告は上告したが、最高裁は認めず、高裁判決が確定した。

 この裁判では、喜多川氏本人も証言台に立った。それらの裁判記録、弁護士とのやり取り、社内の会議録は、貴重な一次資料だ。当然、ジャニー、メリー両氏の文書も含む。

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