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ジャニー氏の痕跡を、この世から一切なくせば解決するのか? “戦後最悪”の性加害事件を風化させない“たった1つの方法”

2023/10/17
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「長らくジャニーズ事務所は、タレントのプロデュースをジャニー喜多川、会社運営の全権をメリー喜多川が担い、この二人だけであらゆることを決定していました。情けないことに、この2人以外は私を含め、任された役割以外の会社管理・運営に対する発言は、できない状況でした」

「我慢すれば、いい夢が見られる。皆、通っていく道だ」

 また、外部専門家の調査報告も、相当数の社員が、性加害を認識したと結論づけた。少年らが被害を訴えると、スタッフは、「デビューしたければ、我慢するしかない」「我慢すれば、いい夢が見られる。皆、通っていく道だ」と答えた。

 こうして、「『見て見ぬふり』に終始し、何らの対応もしないどころか、むしろ辛抱させるしかないと考えていたふしがある。このような長年にわたるジャニーズ事務所としての不作為も被害の拡大を招いた」という。

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 カリスマ性のある絶対的存在の創業者、それを畏怖し、皆が口をつぐんだ。そして、性加害から目を逸らす、異様な空気が流れていた。

 専門家チームは、「マスメディアの沈黙」も、被害を拡大させた一因とする。前回、私は、これが日本の政界、田中元総理の金脈報道に通じると書いた。そして、“得体の知れない空気”もまた、それと共通するのだ。

 前に触れたが、戦後の政界で、田中角栄は異色の存在だった。

自民党の最大派閥を率いた田中角栄 ©文藝春秋

 雪深い新潟の農家に生まれ、小学校卒の学歴しかない。裸一貫で上京し、建設会社の経営を経て、政界入りした。持ち前のバイタリティー、官僚を操る手腕で、頭角を現す。そして、総理の座に就き、長年の課題の日中国交回復も果たした。それに、国民は、「今太閤」「庶民宰相」「コンピューター付きブルドーザー」と熱狂した。

 一方で、田中には、「金権政治」というダーティーな評価がついて回る。権力の階段を登る中で、政界に札束をばら撒いたという疑惑だ。その原資が、幽霊会社、ダミー会社を使った土地取引だった。

 結局、金脈を追及され、退陣するのだが、その後も政界に君臨した。所属する国会議員100名余り、自民党最大の派閥を率い、彼なくして、政策はおろか、総理も選べない。鉄の団結を誇る派閥は、「田中軍団」と呼ばれた。

 それは、元田中派の橋本龍太郎、小渕恵三らが総理となり、小沢一郎、二階俊博が今も政界で活動していることで分かる。

 だが、ここで素朴な疑問も湧く。当時、自民党には、福田赳夫、三木武夫などの派閥もあった。そこで、なぜ田中だけが、これほど強大な勢力を持てたか。

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