心理学者のポール・エクマンの言う「軽蔑の微笑み」
仕草と表情は、無意識のうちに本音や感情を露わにするので、会見では要注意である。例えば学長は、威圧的な発言をしながら、顔を動かすことなく、何度も鋭く冷たい視線だけを素早く左右に走らせていた。このような場では、普通、周りの反応を見ようと顔を左右に動かすだろう。鋭く視線だけを素早く走らせるのは、周りの反応を気にせず、質問した相手をチェックするためにほかならない。常に細かい所までチェックし、すべてを把握しなければ気がすまないという、支配的なマネジメントスタイルが、その仕草から想起される。
パワハラ報道に反論する谷岡学長(共同通信公式チャンネルより)
人について話す時は、表情の端に好き嫌いがにじみ出ていた。伊調選手について話している表情を見ると、好感を持っていないことは一目瞭然だ。「そもそも、伊調さんは選手なんですか」と言った時は、一瞬、眉間にシワを寄せて顔をしかめた。口調も高圧的。「選手でない人、五輪を目指すはずがない人」と言いながら、唇を横に引いて冷やかな笑みを浮かべた。この微笑みは、心理学者のポール・エクマンの言う「軽蔑の微笑み」に似ている。心の中にあるマイナス感情を、無意識のうちに微笑みで隠そうとしたものだ。
仕草や表情から本音を見抜いてしまう
「伊調さんを批判しようとは思いません」と言い終わると、唇を隠すように巻き込み、唇をなめた。この仕草も、そう言ったもののストレスが強くなったために表れたものだ。学長は自分がこのような仕草をしていることに、おそらく気がついていない。だが見ている側は、意識せずとも仕草や表情から本音を見抜いてしまう。
栄監督の娘に対する報道には抗議するとしながら、伊調選手にはマイナス感情を示したことから、学長の弁にあった“えこひいき”の臭いさえ感じてしまう。中立性や公平性、そんな言葉も頭をかすめる。
言葉使いも否定や決めつけが多いため、思い込みが強く、意見を押し付けるタイプだと思われる。語ったエピソードも「私が」と自分中心のことが多く、すべてに自分を優先させている印象だ。パワハラに対する調査も行わずにそれを頭から否定したことからも、論理より感情を優先させ、事実を見ずに自分の思い込みで判断を下すリーダーとみなされる。物議を醸した発言とマイナスイメージが強い表現の相乗効果で、谷岡学長の会見は反感を持たれたのだ。
そんなリーダーが組織を率いる場面を想像すれば、自ずと組織自体に対するマイナスイメージも膨らんでくるというものだ。組織を代表して会見を行うなら、内容だけでなく、表現にも気を使わねばならない。
謝罪会見などではマニュアルが作成され、政治家などにもメディアトレーニングが行われるのはそのためだ。感情的にならず冷静に落ち着いて、言葉使いには気をつけ丁寧に、手や身体の動きや表情に注意する。リスク・マネジメントが必要な局面は突然やってくる。そんなとき、谷岡学長を他山の石として、「見られている」感覚を忘れてはならない。