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クマの生息域が人の生活圏を侵食しつつある

 人里に降りて食料を探す「アーバンベア」。その大量出没の理由を、NPO法人日本ツキノワグマ研究所の米田一彦氏(74)はこう明かす。

米田一彦氏 ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

「出産数の多かった21年に生まれた個体が、今年になって1メートル前後に成長し、親離れして行動範囲を広げている。今年はドングリ類が凶作で山に食料がなく、冬眠前のクマが腹を満たすために人里に降りてきていることが考えられます」

 東北だけでなく、福島県や長野県でも人身被害が多発している。さらに東京都内や一時は絶滅したと考えられていた伊豆半島でも、クマが見つかった。こうした背景にはクマの個体数の増加と、生息域の拡大がある。米田氏が解説する。

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「ツキノワグマの絶滅を回避するため、駆除を抑制する保護政策に転じた2000年以降、徐々に個体数が増えていったものとみられる。山の中のクマの密度が増え、餌場を取り合う中で、若いクマから順に競争相手のいない空白地帯を開拓するようになり、生息域を広げていった」

母子のツキノワグマ

 環境省生物多様性センターの調査によると、2019年のクマの生息域は2003年度と比較して約1.4倍に拡大している。そしてその生息域は、人の生活圏を侵食しつつある。

少なくとも10月いっぱいまでクマの出没は収まらなそう

「里山に人が入らなくなり奥山化が進んだり、集落の住民が減って森との境が失われたりしたことで、住宅地に近い場所にまでクマの活動域が及んでいる。私の暮らす広島では1年の暮らしを集落に依存する集落型のクマが出たことがありますが、この個体は飲食店を回って食料を求め、役場の裏で越冬した。このようにアーバンベアは人里に居ついてしまうことがあるので、きちんと圧力をかけて森に追い返さなくてはいけない」(同前)

 前出のマタギの鈴木さんによれば、「まだ越冬できるほどに肥え太ってはおらず、しばらくクマの出没は収まらなそうだ」。

 この時期のクマは栗の木を目当てに人里に降りてくるというが、これからは柿の木、それがなくなると倉庫にある穀類や、人家の食料を狙う。