最後の音楽的な転機は、R&Bからさらに飛躍して、エレポップやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)を取り入れていったことだろう。2009年に発表した9作目のオリジナル・アルバム『PAST < FUTURE』のジャケットがその変化を物語っている。前年に大ヒットした『BEST FICTION』の写真を引き裂き新たな顔を見せるアートワークは斬新かつ挑戦的で、ここに彼女の同じ場所に留まるつもりはないというアティチュードがはっきりと表現されている。
実際、この作品には従来の流れを汲むR&Bナンバーも収められているが、海外のクリエイターに楽曲やプロデュースを委ねるなど新たな試みが目立つようになり、サウンド的にもソリッドなシンセサウンドを多用している。その後も海外クリエイターを起用する試みはさらに深化し、EDM界のスターであるゼッドと共演したり、全編英語詞の楽曲が目立つようになってきたりと、徐々に楽曲のスケールが大きくなっていくのである。
土屋アンナ、山下智久とコラボした異色アルバム
こういったEDM志向が大きく花開いたと言えるのが、2016年に発表された「Hero」ではないだろうか。バラード風の導入からプリミティヴなリズムが響くとともに4つ打ちのダンスビートに変化していくテクニカルな楽曲だが、NHKで放映されるリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックのテーマソングに起用されて大ヒットを記録。その後、引退前の「NHK紅白歌合戦」でも歌われ、まさに国民的なヒット曲として彼女の後期の代表曲に育っていったのである。
また、これらと重なるかのように、他のアーテイストとのコラボレーションも目立つようになってきた。
2011年に発表したアルバム『Checkmate!』では、m-floやZEEBRAといったSUITE CHIC絡みのメンバーから土屋アンナ、山下智久といった意外なメンツまで招集し、異色のアルバムに仕上がっていた。
その決定打といえるのが、2014年に平井堅と共演したシングル「グロテスク」だ。こちらも強烈なダンスビートに乗せた刺激的なデュエットに仕上がっており、従来のR&Bのスタイルから一歩先に進んだ楽曲として高く評価された。