従来のバディもののように美しい友情も、信頼も何もない。でも、このバディはファッション業界の歪な構造をひっくり返す力を生む――。マンガ『ファッション‼︎』を最新刊まで読み終えた時、読者はこの物語が持つ真の恐ろしさを目の当たりにする。
ファッション業界の闇や、人間の恐怖を暴く『ファッション‼︎』。本作を一言で表すとしたら、お仕事マンガ、ホラー・ミステリー……今までの私はそう思っていたが、最新刊5巻でその概念が一気に覆された。『ファッション‼︎』とは、実は新しいバディものだったのではないか? と。
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主人公はファッションオタクの新道開。ショーの演出、セレクトショップのバイヤーを経験するなど、ファッションに人生を捧げてきたが、とある事件をきっかけに業界から退いている。その後、別の仕事に従事し妻子と幸せに暮らしていたが、ある日ファッションデザイナー志望の学生・ジャンと出会ったことで運命が狂い始める。
ジャンは荒削りながらも才能と情熱が迸る青年だ。しかし、どんなに強い想いや才能があっても、資金力や人脈がなければ生き残ることはできない……。業界の残酷なリアルが彼に襲いかかる。彼のように未来ある若者が活躍できる業界にするにはどうしたら良いのか? 自分にできることはないか? そんな使命感に駆られた開は、自分の全てを捧げて、ジャンをプロデュースしていく。
こうして2人はゼロからファッション業界に挑むが、どうやらジャンは“見せかけ”が上手いこと、深い闇の一面があることが明らかになる。既刊1~4巻では、開や周囲の人間がジャンに取り込まれていく様子に恐怖を覚えながらも、開の手腕によって無名の洋服がファッションブランドに化けていく……その見事な過程にただ圧倒される。
だが、ずっと不思議で仕方がなかった。開とジャンの間に友情はおろか、信頼なんてないはずなのに、なぜこんなにうまくいくのか? と。その答えが5巻にあった。
“…そうかこの子たちはお互いを補完し合ってるんだ” (『ファッション‼ 5』P47)
それは決してデザイナーとプロデューサーという役割的なものではなく、人間の性分的なものだ。例えば、ジャンは開にはない小狡さを持っており、それは人の良さが仇になる開を強く支える。一方で、開の真っ直ぐさと確かな経験はジャンの“見せかけ”を本物に変身させる。さらに、これまではジャンの異常性ばかりが目についたが、実は開もまたモンスターだったのだと、最新刊5巻では彼の狂気性を垣間見る。
2人を繋ぎ、突き動かすのはファッションへの想いなんて崇高なものではなかった。彼らに迸るのは圧倒的なエゴと狂気。そんな闇でギラギラと輝く、新たなバディものの真髄を見た気がした。