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 アイフォーンだけではありません。ジープ社のSUV(スポーツ用多目的車)や、L.L.ビーン社のジャケットやブーツといったアメリカ製品も、私たち日本人には高価に映りますが、アメリカやイギリス、ドイツなど欧米の中間層にとっては常識的な価格の範ちゅうに入ります。

 またコロナ禍が収束し、海外旅行に出かけた日本人による「ハワイでラーメンを頼んだら1杯で2000円もした!」といった驚きの声がネットで散見されるようになりました。2000円のラーメンは欧米人にとって驚きではありません。それが私たちには法外な値付けに思えるのは、日本の賃金水準が低すぎるからです。

日本はどこで間違ってしまったのか?

 日本の賃金はもともとここまで低かったわけではありませんでした。

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 OECDの調査では、約30年前の1990年には、日本の平均賃金は3万6879ドルと、アメリカの4万6975ドルに比べれば見劣りするものの、イギリスやフランスよりも高い水準でした。

 しかし1990年以降、日本の平均賃金はほとんど増えませんでした。OECDによれば1990年から2022年までの約30年間で4630ドル(1ドル=145円で計算して67万1350円)しか上がっていません。上昇率はたった12.5%です。

 一方、アメリカやイギリスの賃金はこの間に約5割上昇し、韓国ではほぼ2倍になりました。日本が足踏みしているうちに他の国々がずっと先にいってしまい、日本だけが賃金上昇の恩恵にあずかれず、大きく劣後してしまったのです。

 30年は長い年月です。1990年に生まれた人たちは今では企業で中堅社員として活躍し、当時、中堅社員だった人たちは定年後の第二の人生を考えなければならない年齢に到達しています。

 私自身、30代初めの中堅記者として働いていた1990年当時を思い出すと隔世の感があります。ビジネスパーソンは私たちメディア関係者を含めてスマホはおろかケータイさえ持っていませんでした。NTTドコモの前身であるエヌ・ティ・ティ・移動通信企画が設立されたのは1991年のことです。インターネットも普及しておらず、eメールもありませんでした。仕事でもプライベートでも相手との連絡は固定電話かファクスが中心でした。

 インターネットによる映画や音楽、ゲームなどの配信ももちろん影も形もありません。映画や音楽はレンタルビデオ・CD店でVHSのビデオやCDを借りて視聴しました。ゲームをする時は、任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)や1990年に発売されたスーパーファミコンなどのゲーム専用機を使いました。ゲームソフトはROM(読み出し専用メモリー)に記録されており、ロムカセットと呼ばれた、ROM付きの基盤が内蔵されたプラスチック製の箱をゲーム機本体に装着してゲームを楽しんだのです。

 インターネットなどのIT(情報技術)が普及・浸透する以前の時代です。「プレ(前)デジタル時代」と言ってもいいかもしれません。

 私たちの賃金は、そんないにしえの1990年からほぼ据え置かれたままなのです。日本はいったいこの長い年月、何をしてきたのでしょうか。

 日本が「安い賃金」の国へと転落していく道筋を振り返ってみましょう。それは同時に社員のやる気が失われていった真因を探ることでもあります。