自分の感情と向き合い、肯定してみることも大事
その他にも、薬を飲むのが苦手な利用者が薬を床にペッと吐き出して、「苦いんだよ、このバカ女」と言ってきたとき。
歩行が不安定な利用者に付き添っていて、手が離せないときに、「おい、茶ァ淹れろよ! いつまでやってんだよ、このノロマ!」と他の利用者に言われたとき。
熱中症が怖い時期に、冷房嫌いの利用者から、「冷房切れよ! グズグズするな! キビキビ動かないと殴るぞ!」と怒鳴られたとき。
……思い出すとキリがないが、「人の気も知らないでぇぇぇぇぇえッッ!!」と、業務中利用者にパイルドライバーをキメたくなった瞬間は、これまで何度もあった。
同じような場面に出くわしても、「利用者さんにイライラしたことは一度もないかな?」と話す先輩職員を見て、「私は介護士失格だ」「やっぱり向いてないんだ」と落ち込むこともあったが、幸いにも私は今まで利用者を怒鳴りつけたこともなければ、パイルドライバーもジャーマンスープレックスも掌底もキメていない。
その代わり、心の中ではもう言いたい放題&やりたい放題だ。
最近は、それでいいんじゃないかと思っている。
当たり前だが、介護士も人間である。
乱暴な言葉遣いをされたり、暴力を振るわれれば、怒りや悲しみの感情が刺激される。それがたとえ、認知症ゆえのものだったとしても、瞬間的にはカッとなってしまうこともあると思う。
どんなケースでもそうだが、“刺激された感情”を否定し、無視し、あるいは抑え続け ていると、いつか爆発するときが来る。そうならないためには、まず自分の感情と向き合い、肯定してみることも大事だと思う。攻撃されてムカつくのは当然だし、それは何より心が生きている証拠だ。何も恥じることではない。
心の中でだったら、いくらでも悪態をついていい。聞くに堪えない言葉で言い返しても、ジャイアントスイングをキメても、なんなら場外乱闘に持ち込んだっていい。
大事なのは、それを実際に行動に移してしまわないことだ。そのためだったら、心の中でどんなことをしたって構わない。
声かけの仕方が悪かったんじゃないかとか、その人に合ったケアができていなかったのではないかとか、そういう反省もひとまずあと回しでいい。利用者の顔を見たり声を聞いていたりすると気持ちが鎮まらないのであれば、いったんその場を離れて外の空気を吸ったり、一服しにいくのも手だ。
いつでも優しく丁寧でありたい、穏やかな心の持ち主でありたい、利用者の健康と生活を大事にしたい……など、介護士としてこうありたい、という理想は多くの介護職員が持っていると思う。
けれど、だからこそ、一生懸命やるほど、相手を思うほど、ちょっとしたきっかけで呆気なく鬼になってしまう……。
やってしまったことは許されないが、ニュースになってしまった介護職員のなかには、きっとそんな人たちもいたんじゃないだろうか。
数日後、森田さんから、「母を施設に入れることにした」と報告をもらった。ちょっとさみしそうな、悔しそうな口ぶりだったけれど、どこかホッとしたような顔つきだったのも忘れられない。