「デブ」「ブス」という他人の言葉から、恋愛に卑屈に、臆病になっていた女性が、自分の気持ちに素直になり、恋人と付き合うまでに成長する。恋愛の形は人それぞれ。でも、できるならこんな形が良い。『やまとは恋のまほろば』6巻は、そんな“恋の理想形”が温もりあふれる筆致で描かれている。
本作の主人公は大学1年生の穂乃香。ぽっちゃりとした体型へのコンプレックス、大学デビューした友人への気後れ……自嘲と疎外感をまとった息苦しいキャンパスライフを送っている。そんな彼女の唯一の心の拠りどころとなっているのが「古墳研究会」だ。
穂乃香を前にした男子学生たちは決まって彼女の容姿や体型を馬鹿にするが、「古墳研究会」の男性部員2人は決してそんなことはしない。例えば、容姿端麗で少しミステリアスな雰囲気をもつ、同級生の飯田くん。彼はとにかく古墳を愛し、同じく古墳にアツい情熱を注ぐ穂乃香を同志として分け隔てなく接する。そして、お調子者だけど、周りをよく見ている3年生の可児江先輩。彼もまた穂乃香を見た目で判断することなく、ピンチの時にはスマートに助けてくれる。彼女にとって、2人がいる「古墳研究会」とはまさに“まほろば(素晴らしいところ)”そのものだ。
飯田くんと可児江先輩の温かな眼差しを受けて、時には2人にドキマギさせられながらも、穂乃香は少しずつ自信を育くんでいく。1~5巻では彼女が少しずつ前進していく様子と、2人の間で揺れる恋心が描かれてきた。そして6巻ではついに穂乃香にとって初めての交際がスタートする。
今の季節にぴったりな多幸感あふれる6巻の表紙。これによって、気になるお相手の正体がわかってしまうが、注目してほしいのは穂乃香の心のあり方だ。
“真っ当な他者評価が心の在り方を正してくれる”(『やまとは恋のまほろば』1巻 P46)
かつて心の中でこう呟き、自分のことを「ブス」「デブ」と嘲笑う周囲の声は正しい、飯田くんと可児江先輩から向けられる好意を“勘違い”するな……と常に自分を戒めていた穂乃香。巻を追うごとにその呪縛から解き放たれていったものの、初めての交際となれば「彼に嫌われたくない」一心で、また自分の心の在り方を他者に委ねてしまうのではないか? と一抹の不安があった。現実世界でもこのような状況に陥って、恋人に依存してしまう人も多いことだろう。
だが、1巻の時の穂乃香はもうどこにもいない。恋愛初心者特有のひやっとするようなすれ違いはあれど、彼女は自分で心の手綱をしっかりと握っている。彼への愛と同じくらい、自分の感情、想いを大切にしているのだ。そんな逞しく、幸せいっぱいな穂乃香を見ていると、1巻から見守ってきた読者は幸せな気持ちで胸がいっぱいになることだろう。それと同時に、彼女のように真っ直ぐで、心の在り方を自分で舵取りできるような恋愛に憧れてしまうはず。