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占い師・しいたけが芥川賞作家・村田沙耶香を占ったら……トーク編

人気作家と気鋭の占い師、それぞれ90年代に暗い青春の過去が?

note

『コンビニ人間』の主人公は村田さんのヒーロー

しいたけ 「人間のルール」の中での幸せって、たとえば友達がたくさんいて、周りの人に羨ましがられるような恋人もいて、仕事ではやりがいが追求できて、みたいなことですよね。

 僕は最近、人はその幸せのレールに乗るために、ある意味「不感症」でいることを選んでいるんだろうなと思うことがあります。自分の利益にならなそうなことは遠ざけたり、時には「ごめんなさい」と要領よく断ったりして、一見スムーズにいっているようだけど、実は裏で誰かが迷惑を引き受けていたり、傷ついているかもしれない。でも、あえてそれは感じないようにしてる。

 そういう目線で見たとき、この小説では誰が傷ついたんだろう?と考えてしまいました。主人公にちゃんとしてほしいと思ってアドバイスする妹や、コンビニをうまくまわそうとする店長やスタッフなど、周囲の人も含めて。

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©榎本麻美/文藝春秋

村田 そうですね、ある意味全員が傷ついている部分もあるけれど、特にこの人が、というのはないかもしれないです。「お姉ちゃんはどうすれば治るの?」と嘆く妹も傷ついてはいますが、そのぶん傷つけてもいますし。

 主人公が一番あっけらかんとしていて、私にとってはヒーロー的な存在なんです。私はどちらかというと白羽さんみたいに、傷ついて、落ち込んで、というタイプなので。主人公はまっすぐだし、傷ついているのかもしれないけど、少なくともそのことに自覚的でないというのは、憧れでもありました。

しいたけ 実は今日、僕は村田さんと「暗い話」ができたらいいなぁと思って来たんです。いつもならある程度、考えをまとめて来たりするんですが、作ったストーリーを用意しても見抜かれちゃって、通用しないんじゃないかと思って。

村田 そうなんですか。

しいたけ だから焚き火を眺めるような、バイト先の控え室のような感じで……。

村田 へへへ(笑)。

「なぜ自分はあの人が嫌いなのか」と向き合う

しいたけ 僕、そのファミレスでアルバイトをしていた学生時代に、目に映る嫌いなものについて、ノートにまとめていたんですよ。

村田 えっ!(驚)

©榎本麻美/文藝春秋

しいたけ どうして嫌いなのか、とかを分析して、すごく暗いですよね……(笑)。でも、すごく嫌いな人でも、何か深い理由があって、もしかしたら自分のほうが考え違いをしているのかもしれない。だから徹底的に嫌いな対象について突き詰めて考えたいと思ったんです。その活動はすごく自分の中で盛り上がったんですが、人に話すと「なんでそんなこと考えてるの?」と理解されませんでした。

 ところが、この小説ではそんな「暗さ」が正面玄関に飾ってある! と思ったんです。「これが気持ち悪いと思ったらどうぞお引き取りください」という感じで。

村田 なるほど。

しいたけ 僕の暗い部分は、物置に隠してあります。完全に捨てることはできないので、たまに見に行くくらい。ただ、誰にでも「誰かのことが嫌いで嫌いでしょうがない」となってしまうとき、周囲に気遣いする余裕もなくそう思ってしまうときって、人生のどこかのタイミングであるような気がしているんですよね。

村田 はい。