1ページ目から読む
3/3ページ目

3つの作品に通ずるもの

 さらに『トリック』は、山田(仲間由紀恵)と上田(阿部寛)の関係性が特徴的な作品である。彼らは男女のバディでありながら、決して恋愛には発展しない。

 そう、『八つ墓村』や『トリック』を見ていくと、『鬼太郎誕生』がオマージュしている日本の物語には、いつも謎を解決するバディが存在する。閉鎖的な村にやってくるのは、ひとりの探偵役ではなく、ふたりの探偵役を担うバディなのだ。『鬼太郎誕生』は、このような文脈をきちんと踏襲する。

『鬼太郎誕生』は、横溝作品の文脈を踏まえ、探偵役をゲゲ郎と水木のふたりに負わせる。単に「目玉おやじが活躍する話」ではだめだったのだ。

ADVERTISEMENT

墓場で酒盛りをするゲゲ郎と水木。ふたりは次第に互いを信頼していく(映画公式Xより)

 最初の問いに戻ろう。なぜゲゲ郎も水木も、原作よりスタイリッシュで、身体能力の高い「イケメン」になっているのか? それは『八つ墓村』や『トリック』を踏まえたら分かる通り、探偵役となるバディが魅力的なほど、観客は引きつけられるからだ。

 とくに『八つ墓村』の映画が公開された1970年代よりも、現在、本作で描かれたような田舎のムラ社会の様子は、昔よりずっと観客にとって馴染みのないものになっているだろう。

 だからこそ、観客といっしょに村に入り込む探偵役は、観客にとって身近で魅力的な存在にならなくてはいけない。観客が「この先も続きを観たい!」と思うような、バディがそこにはいなくてはいけない。

ゲゲ郎と水木(映画公式Xより)

若い世代にとっての『鬼太郎誕生』という物語体験

 そのような文脈を踏まえた本作は、原作よりさらにゲゲ郎や水木を格好よく、魅力的に描いた。それは今の観客にとってもはや遠いものになってしまった、高度経済成長期のムラ社会に人々をいざなう。

 実際、本作はゲゲ郎と水木の人気を軸にしながら、『八つ墓村』などの横溝作品への再注目の契機となっている。ゲゲ郎と水木という新たなバディが、日本のフィクションにおいて脈々と受け継がれる物語への入り口を作り出しているのだ。

『八つ墓村』も『トリック』も見たことのない若い世代にとって、『鬼太郎誕生』は初めての物語体験になるのかもしれない。それはとても素晴らしいことではないだろうか。