2023年11月17日から劇場公開された映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(PG-12)が、公開24日間で累計動員数81万人、興行収入11億5000万円を突破した。

 本作は、水木しげる亡き後に初めて制作された長編作品であり、さらに水木しげるが描かなかった鬼太郎前史を題材に取っている。オールドファンほど当初は不安視していたが、蓋を開けてみれば、これ以上ないほどに水木しげるの精神と『鬼太郎』の世界観を反映した作品となっていた。

口コミを中心に話題を集め、右肩上がりの大ヒットに(映画公式Xより)

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 水木しげるの『鬼太郎』シリーズの歴史は古い。

 もともとは、戦前にあった紙芝居『ハカバキタロー』(脚本・伊藤正美、作画・辰巳恵洋)から着想を得た水木しげるが紙芝居『墓場鬼太郎』を制作し、1960年にその紙芝居版をマンガに翻案することで貸本版『墓場鬼太郎』が完成した。

 そして、この貸本版を少年誌向けにリブートしたのが「週刊少年マガジン」に掲載された『墓場の鬼太郎』である。「少年マガジン」では1965年から不定期での掲載だったが、1967年19号から正式な連載作品となり、その際に翌年1月からのテレビアニメ化(第1期)を見越して『ゲゲゲの鬼太郎』へと改題される。

復刻版『墓場鬼太郎』(角川文庫)

なぜ鬼太郎はこれほど日本人に愛されてきたのか

『ゲゲゲの鬼太郎』はこれまで合計6回にわたってTVアニメ化されてきた。なぜ『鬼太郎』は、これほど日本人に愛されてきたのだろうか。土俗的な伝承に基づく独自性ある妖怪、ホラーとユーモアの融合など理由はいくつも考えられるが、わけても主人公・鬼太郎のキャラクター性に着目したい。

 そもそも水木作品における妖怪とは、「人間の法や倫理観に囚われない自由な存在」と位置づけられる。

 鬼太郎は幽霊族の両親から生まれた妖怪でありながら人間の味方をするので、人間の理屈と妖怪の理屈の狭間に立つ。であればこそ、鬼太郎には「異化効果」の力が備わる。