デビュー作にみられる「鬼太郎と目玉おやじ」の“原型”
ここで水木しげるの実質的なマンガデビュー作『ロケットマン』にも着目したい。
この作品では、地球上空に現れた「第二の月」を調査するためにロケットに乗り込んだ博士が、謎の宇宙生物によって怪物の姿に変えられてしまう。科学者の卵であった息子が発明によって博士を救うのだが、救われた父は薬の副作用によって手のひら大のサイズに縮んでしまい、息子の胸ポケットに収まる。
今日「鬼太郎」シリーズを見慣れたわれわれは、ここに「鬼太郎と目玉おやじ」の原型を見て取ることができるだろう。一度は父を失った主人公が、矮小化した父に見守られる、という物語構造である。
水木しげるにとって重要な「父と子の物語」というテーマ
戦時中には生命の尊厳を否定され、戦後には自分たちを育てた価値観を否定され、それでも父親としての役割を果たし、父子の関係性を再構築していったのは、戦後日本社会における戦中派の姿ではなかったか。水木しげるもまた、従軍経験で死の淵に瀕し、戦後には赤貧を洗うが如しの極貧生活が続き、職人的気質でマンガを描いて家族を支え、市井の“お父ちゃん”として子を育ててきた。
水木しげるという作家にとって「父と子の物語」は、きわめて重要なテーマであったと推察される。
ちなみに、鬼太郎の生誕シーンは『墓場鬼太郎』では第1話相当の「幽霊一家」で描かれている。『ゲゲゲの鬼太郎』においては、「少年マガジン」の連載では描かれていないが、「別冊少年マガジン」(夏休み特大号)1968年8月号に掲載された読み切り「鬼太郎の誕生」でリブートされている。このエピソードは、2018年に講談社から刊行がスタートしたコミッククリエイト版の第1巻の冒頭に収録されているので、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のエンドロールを思い出しながら読んでみるといいだろう。
単なるスピンオフ作品ではない
因習の残る田舎の旧家を舞台にした連続殺人事件、バトルアクション、主人公ふたりのバディものといった要素が高く評価されている本作。また、それに加えて、作中に色濃く反映された水木しげるの精神が、若い世代、新しいファン層に受容されていることに、『鬼太郎』作品の普遍性を認めることができる。
これは単なるスピンオフ作品にあらず。「あたらしい鬼太郎」の誕生である。