2023年『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が金子由里奈監督のもと映画化され話題になった大前粟生さんの最新刊『チワワ・シンドローム』が、2024年1月26日に発売となった。

 ある日突然、全国の800人以上に“チワワのピンバッジ”が取りつけられるという事件が発生。主人公・琴美がマッチングアプリで出会った新太もその被害者のひとりだった。〈チワワテロ〉と呼ばれるようになるこの事件の直後、新太が姿を消してしまう。琴美は親友で「全肯定インフルエンサー」のミアの力を借りて、彼の行方を捜しはじめる。

『チワワ・シンドローム』書影。装画は釣部東京さん

 〈チワワテロ〉はSNS上で大きな話題となり、そのうねりが更なる事件を引き起こす——私たちが日々目の当たりにしているSNSと社会の関係性が、物語を鮮やかに展開させる。そんな『チワワ・シンドローム』執筆に際して大前粟生さんが感じていたこと、考えたことを綴ってもらった。

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SNSで発信しようとするそのときに

 大きな災害が起こると、自分にできることは寄付くらいしかないのだと理解しつつも、SNSをじっと眺めてしまう。災害時に役立つ情報や、被災された方の心のケアなど、緊急時に共有しておくべき必要なことを投稿してくれる人がいる一方で、ただ興味関心を引き、閲覧数を稼ぐためだけにデマを流す人もいる。許せない、と思って、そのことを投稿したくなる。同時に、自分もなにかいいことを言っておくべきなのでは、と思ってしまう。被災状況を心配していただけなのに、いろいろな人の言葉を眺めているうちに、祈りのふりをしたエゴが自分の中に芽生えている。それに気づくと、自分は一体なんなんだろう、と無力感に打ちのめされる。

大前粟生さん 写真:佐藤亘

 デマの中には、心を持った人間がまさか本当にそんな嘘をつくのか、といったものまである。そうしたものを見かける度に、この投稿をした人はどういう気持ちなのだろうか、と考える。たぶん、人を騙そうだとか、状況を混乱させようだとか、そういうことを思ったりはしていない。なにかを考えてそうしているというわけではなく、ただ、数字がほしいのだろう。そして、デマをデマだとわからずに信じてしまうのも、きっと数字のせいだ。全く広まっていないものより、何万と拡散されているものの方が「へえそうなんだ」と簡単に思うことができる。

 私たちはどうも、「いいね」や拡散といったかたちで興味関心が数値化されるようになったことで、知らず知らずのうちに、「数が多いものが正しい」という思考に陥りやすくなっている。