主人公たちが見つけた“答え”
SNSの問題を考えようとする時に、SNSという場所はあまり適していない。何を言っても数字に回収されてしまうからだ。
一方、小説というメディアは現代的なテーマを扱うことに案外と合っているように感じる。
単純な話だが、小説は長い文章であることで反射的に切り取られにくく、数といったものに翻弄されにくい。そして、単一の意見ではなく複数の声が絡まり合って物語となることで、主義主張というものを超え、体験として読者それぞれの胸に残ってくれる。もちろん、ひとりひとり胸に抱くものは違うだろう。
一冊の本という同じものを読みながら、バラバラのことを考える––––それは、人を型に嵌め込むような一貫性に裏打ちされた主義主張や「数の正しさ」が蔓延する現代では、とても意義のあることのように思える。
そのようなことを考えながら、『チワワ・シンドローム』という小説を書いた。
人の承認欲求や「ケアされたい」という願望について、そしてそれを利用しようとする者たちの物語だ。
主人公は大手人材サービス会社の人事部に勤める25歳の女性。マッチングアプリで知り合った歳上のプログラマーや、配信活動をしている親友、新卒採用面接に訪れた大学生、迷惑行為“通報”系YouTuberなど、SNSが日常にあって、誰とでも繫がれてしまう現代を生きる人々が登場する。“繫がり”をしんどいと思うこともあるけれど、日々の生活や仕事に疲れてしまっていて、“繫がり”にケアされている面もあるから、そこから抜け出したくても抜け出せない、大事なあの人との“繫がり”を最後まで信じてみたい––––そんな登場人物たちの、ひいては私たちの内面に、この小説だから迫ることができると思った。
そして主人公たちは、さまざまな事件や心の傷に触れることで、今の時代をどうやって生きていくのか、ラストシーンで彼女らなりの答えを見つけてくれた。筆者である私も、彼女たちが見せてくれた光景を胸に刻みながら、ままならない日々を生きていきたい。