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北朝鮮・金与正の「岸田首相が平壌訪問」メッセージで浮上する“拉致2人帰国説”

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「(岸田文雄)首相が平壌を訪問する日が訪れることもあるだろう」

 2月15日、北朝鮮の金正恩総書記の実妹、金与正朝鮮労働党副部長が出した談話が、日本に衝撃をもたらしている。朝鮮半島情勢に詳しい朝日新聞記者、広島大学客員教授の牧野愛博氏が、背景を分析する。

金与正党副部長

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北朝鮮はトランプ政権復活を前提にした準備作業に没頭

 今回、金与正氏は「岸田首相訪朝」にいくつかの条件をつけた。談話には、「日本が我々の正当防衛権に言い掛かりをつける悪習を払拭し、解決済みの拉致問題を障害物として置かなければ」とある。これを読み替えると、「核・ミサイルを巡る米朝協議に、日本は口を挟まず、2014年に北朝鮮が提案した拉致問題の解決案を受け入れろ」という意味になる。

拉致被害者の曽我ひとみさんと岸田首相

 北朝鮮は今、来年1月に米国でトランプ政権が、再登場することを前提にした準備作業に没頭している。ドイツのトマス・シェーファー元駐北朝鮮大使は「平壌はトランプに在韓米軍の全面または部分撤退と北朝鮮の核保有を認めさせようとするだろう」と指摘する。

トランプ前大統領(右)と金総書記

 そこで目障りなのが日本と韓国だ。中でも日本は、当時の安倍晋三首相がトランプ氏に「在韓米軍撤収や核保有を認めることは許されない」と主張したという。

水面下で行われた、拉致被害者に対する再調査の中間報告

 北朝鮮はそこから学んだ。韓国政府元高官は、「日本が米朝協議に口を挟めないようにするのが狙いだ」と語る。米朝と日朝の協議が並行して進めば、日本も北朝鮮の機嫌を損ねる真似はしづらくなる。

 しかし、日本人拉致問題はどうするのか。実は、北朝鮮は14年、水面下で日本に対し、拉致被害者に対する再調査の中間報告として2人の生存を伝えている。日本政府が拉致被害者として認定した田中実さんと、警察庁が「拉致の可能性を排除できない行方不明者」としている金田龍光さんが平壌で暮らしているというものだった。同時に北朝鮮側は、「これで拉致問題は最終解決した」と主張したため、日本側は中間報告を受け入れなかった。北朝鮮は今回、同じ主張を繰り返し、日本に譲歩を迫る考えだろう。