文春オンライン

なぜ日本は「情報隠蔽国家」になってしまったのか

私が新刊の中で「預言」していたこと

2018/04/10
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政権の無茶な意向や無謀な政策に右往左往する官僚たち

 財務省、防衛省・自衛隊、厚労省、文科省。「国家の情報」をめぐってあらゆる役所で続発する事態に共通するのは、「一強」政権の無茶な意向や無謀な政策に右往左往する官僚たちの姿である。しかも官僚にとって最大関心事の人事を官邸に牛耳られ、露骨にそれを振り回す官邸の意向や政策に合わせるために戦々恐々とし、四苦八苦し、忖度と保身に走り、時に重要な情報や公文書を隠蔽し、時にそれを平然と捻じ曲げ、時には廃棄したと強弁し、ついには改竄にまで手を染めてしまった。

 つまり、個々の事態を分析するだけにとどまらず、強圧的な「一強」政権の無茶で無謀なありようと振る舞いに焦点を当てねば、問題の全体像は見えてこない。むしろ、そこにこそ問題の核心はあり、一連の事態の最大かつ根源的な責は政権にある。

©iStock.com

私たちは情報と情報獲得の手段を保持しているか

 もうひとつ、こうした事態を放置しておくといったいどうなるか、という点についても簡単に言及しておく。

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 2009年にようやく成立した公文書管理法は第1条で、公文書類を「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定義している。すなわち、これを隠蔽したり廃棄したり、ましてや改竄するなどというのは「国民共有の知的資源」を毀損する行為であり、「民主主義の根幹」を腐らせる国家犯罪行為。また、行政府が公文書を隠蔽したり、改竄文書を国会に提出すれば、立法府が行政を適切にチェックできなくなって三権分立は崩壊する。と同時に、後世に正確な歴史を残していくのも不可能になる。

米国の第4代大統領ジェームズ・マディソン ©iStock.com

 このあたりの重大性については、長々とした解説を加えるより、拙著『情報隠蔽国家』でも引用したアフォリズム(警句)を最後に記しておきたい。米国の第4代大統領であり、合衆国憲法の父とも評されるジェームズ・マディソンの言葉である。

〈人民が情報を持たず、あるいは情報獲得の手段すら与えられていない人民の政府は、喜劇、あるいは悲劇への序幕のどちらかである。知識は常に無知を支配する。自分たち自身が統治者であろうと欲する国民は、知識が与える力で自らを武装しなければならない〉

 さて、この国の現在はどうか。一応は民主主義国家を自称しているものの、私たちは情報と情報獲得の手段をきちんと保持しているか。無知に追いやられ、都合よく支配されようとしてはいないか。

 答えは記すまでもない。それはまさに喜劇、あるいは悲劇への序幕にほかならない。

情報隠蔽国家

青木理(著)

河出書房新社
2018年2月24日 発売

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